ヘリング(Keith Haring)(読み)へりんぐ(英語表記)Keith Haring

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ヘリング(Keith Haring)
へりんぐ
Keith Haring
(1958―1990)

アメリカの画家。ペンシルベニア州カッツタウン生まれ。幼いころより美術に強い関心を示す。1976~1978年、ピッツバーグの美術学校に学び、同市のアート・センターで初個展を開催。1978年、ニューヨークに移り視覚芸術学校に入学、巨大な写真の上にペイントを施した作品を制作した。1981年、ニューヨーク市営地下鉄の広告板にチョークやフェルトペンでドローイングを描き始める。単純で明快な線描、原色を用いた鮮やかな色彩、温かみのある画風により「グラフィティ・アート」や「サブウェイ・ドローイング」の旗手として注目された。1982年にはニューヨークのトニー・シャフラジ・ギャラリーで大規模な個展を開催しドクメンタ7にも出品。翌1983年にはホイットニー・バイエニアル(ニューヨーク)とサン・パウロ・ビエンナーレにも相次いで参加し、その名声は国際的なものとなった。またこのころより、ウォーホルバスキアとも交流し、神出鬼没の行動でも話題を呼んだ。1986年にニューヨーク、1988年には東京に自らのオリジナル・グッズを売る「ポップ・ショップ」を開き、ジッポー・ライターやスウォッチ時計のデザインを行うなど、商業活動にも積極的だった。

 ヘリングのドローイングによく登場するモチーフとしては、はいはいする赤ん坊、吠える犬、空飛ぶ円盤、祈る人などが挙げられる(また出身地近くのスリーマイル島原発事故を意識してか、反原発のイコンを紛れ込ませることもあった)。これらのモチーフの多くはマンガにちなんだものであり、同時にへリングの記号シンボル(およびそれを介した社会)への関心を物語っていた。また社会的な名声を確立した後も地下鉄でのドローイングを1986年まで継続し、同年にはベルリンの壁に90メートルにわたって壁画を描くなど、「グラフィティ・アーティスト」としてのアイデンティティ堅持、美術館・ギャラリーでの発表に専念するようになった後も、作風に大きな変化は生じなかった。

 ヘリングはまた、自らがゲイであることをいち早く公言したアーティストであり、後のゲイ・ムーブメントの先鞭をつける役割を果たした。エイズに罹患した後も、反エイズ・キャンペーンに参加したり、キース・ヘリング財団を設立するなど精力的に活動したが、志なかばにして夭逝した。1984年(昭和59)に来日を果たし、数多くの展覧会が開催され、2007年には山梨・小淵沢に中村キース・ヘリング美術館が開館するなど、その知名度は日本でも高い。

[暮沢剛巳]

『「キース・ヘリング回顧展」(カタログ。1993・三越美術館)』『「キース・ヘリング」(カタログ。1999・伊勢丹美術館)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android