ヘンダーソン(読み)へんだーそん(英語表記)Richard Henderson

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

ヘンダーソン(Richard Henderson)
へんだーそん
Richard Henderson
(1945― )

イギリスの分子生物学者。スコットランドのエジンバラ生まれ。エジンバラ大学卒業後、1969年ケンブリッジ大学でX線結晶解析学の博士号を取得。同大学、アメリカのエール大学での博士研究員を経て、1973年からケンブリッジ大学MRC分子生物学研究所研究員。1995年同研究所副所長、1996年同所長。2006年から同研究所プログラムリーダー。
 1970年代から細胞膜を貫く「Gタンパク」など膜タンパク質の構造解明に挑み、当時、金属材料の観察に使われていた電子顕微鏡の利用を思い付いた。しかし、電子顕微鏡は光学顕微鏡と異なり、エネルギーが高く電子ビームを照射すると検体が破壊されてしまうほか、真空状態で観察を行わなくてはならず、水が蒸発し、生体分子の構造解明には不向きであった。そこで、ヘンダーソンは膜タンパク質の一種で、光合成に関与する「バクテリオロドプシン」に着目。その光を吸収する性質から、電子ビームへの耐性があると考えた。タンパク質を膜から取り出さず、グルコース溶液で表面を保護したうえで、弱い電子ビームを照射して観察したところ、それまでにない画像が得られた。1975年、これをさまざまな角度から撮影し、それを画像処理することでタンパク質の三次元(3D)構造の画像を得ることに成功した。その後、タンパク質の電子回折実験を繰り返すなど改良を重ね、バクテリオロドプシンの、7本の螺旋(らせん)状(α(アルファ)へリックス構造)の部分が細胞膜を貫通しているという立体構造を明らかにした。この解明は、現在、薬開発でもっとも注目されるGタンパク質の研究発展の礎(いしずえ)となった。その後、スイスの生物物理学者ジャック・デュボシェらが液体窒素を使って生体分子を極低温処理した後に観察する、クライオ(極低温)電子顕微鏡を開発し、ヘンダーソンは1990年、バクテリオロドプシンを原子レベルで観察することに成功。最初の画像を得た15年前は7オングストローム(1000万分の7ミリメートル)の低解像度であったが、X線解析と同じ3オングストロームまで引き上げ、クライオ電子顕微鏡が生体分子の構造解析に有効なツールになることを証明した。
 1999年グレゴリー・アミノフ賞、2016年コプリーメダル、2017年ワイリー賞。同年「タンパク質などの生体分子の構造を高解像度でとらえるクライオ電子顕微鏡の開発」に貢献した業績で、ジャック・デュボシェ、アメリカの生物物理学者ヨアヒム・フランクとノーベル化学賞を共同受賞した。[玉村 治]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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