ベッケル(スペインの詩人)(読み)べっける(英語表記)Gustavo Adolfo Bécquer

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ベッケル(スペインの詩人)
べっける
Gustavo Adolfo Bécquer
(1836―1870)

スペイン後期ロマン主義の詩人セビーリャ生まれ。幼くして孤児となり、長じてマドリードに出て詩作に励む。彼の詩の源泉と思われる恋に破れ、また結婚にも挫折(ざせつ)し貧窮のうちに夭折(ようせつ)。死後、友人の手によってまとめられた作品がベッケル唯一の詩集叙情詩集(リーマス)』(1871)である。詩人のひそかな告白ともいうべき詩句で綴(つづ)られ、愛の歓喜と苦悩、孤独、精神の空白、死の予感などが吐露されている。「天使の弾くアコーディオン」と称される繊細な感受性、伝統的な民衆詩に根ざした簡素な詩型と深い主観主義は、たとえばハイネの「ドイツ的ため息」とも異なる独自の世界を現出している。後世の詩人に与えた影響は大きく、スペイン近代詩はベッケルに始まるといっても過言ではない。ほかに伝説に題材を求めた幻想的短編集『伝説集』(1864)がある。これも第一級の詩的散文と評価され、詩と同様に広く親しまれている。

[有本紀明]

『荒井正道訳『抒情小曲集』(『世界名詩集大成14 南欧・南米』所収・1962・平凡社)』『神代修編『ベッケル・スペイン伝奇作品集』(1977・創土社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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