ベロー(英語表記)Saul Bellow

デジタル大辞泉 「ベロー」の意味・読み・例文・類語

ベロー(Saul Bellow)

[1915~2005]米国の小説家カナダ生まれ。ユダヤ系。現代米国文学を代表する小説家の一人。1976年ノーベル文学賞受賞。小説「宙ぶらりんの男」「その日をつかめ」「ハーツォグ」など。

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改訂新版 世界大百科事典 「ベロー」の意味・わかりやすい解説

ベロー
Saul Bellow
生没年:1915-2005

カナダ生れのアメリカの小説家。ユダヤ系。9歳のとき両親と共に移住したシカゴの陋巷(ろうこう)で少年時代を送り,シカゴ大学からノースウェスタン大学に移って人類学と社会学の分野を優等で卒業。20代の大半をさまざまな職業につきながらの創作精進に過ごしたあげく,1944年に発表した処女長編《宙ぶらりんの男》が好評を博し,続いて46年には英語の講師としてミネソタ大学に就職,以来方々の大学で英文学や創作指導の授業を担当しながら,活発な創作活動を続けている。前述の処女長編も第2作《犠牲者》(1947)も,現代の庶民の都市生活を写実的に描きながら,前者では人間の〈自由〉の本質を,後者では被害者がそのまま加害者でもありうる人間関係の機微を鋭く追求して,アメリカ小説には珍しく思想性を表面に出した知的な肌合いの小説である。《オーギー・マーチの冒険》(1953)はまた一転して,主人公が饒舌体の語り口で波乱にみちた自分の半生を語るという結構をとり,シカゴの貧家に生まれた少年の自己探求の旅を軸に現代社会を活写したピカレスク風の長編。《その日をつかめ》(1956)では,成功者の父親から人間の屑と罵られる息子の現代の敗者ぶりを描きながら,いわゆる〈シュレミール(どじな奴)〉の救いの道が探求される。この探求の趣向は次の《雨の王ヘンダーソン》(1959)でも同断だが,おのれの運命の充足を求めてアフリカにとびこんで行く巨大な体軀の50男の遍歴の姿を,《オーギー・マーチ》から受け継いだ放胆な文体で描いたこの長編では,主人公の動静に重ね合わせてアメリカ人全体の思考と行動が戯画的にとらえられている気配がある。世評の高い《ハーツォグ》(1964)では,自伝的色彩をも加味した元大学教授が主人公。妻の不貞という屈辱的状況にある彼は,胸中に噴出する懊悩を投函のあてのない無数の書簡や内的独白の形で吐露するが,その懊悩は私生活上の問題から現代のはらむ諸問題へ,人間存在そのものの根本問題へと深まってゆく。こうした“疎外”された状況にある現代人一般の普遍的問題を,〈ヌーボー・ロマン〉的新手法にくみしないで,あくまでも旧来の小説技法を駆使しながら表現するのがこれまでのベローの一貫した態度である。アウシュビッツの生残りの老ユダヤ人と60年代アメリカ文明との衝突を設定した《サムラー氏の惑星》(1970)でも,商業主義が跳梁する現代社会に生きる芸術家の浮沈を描いた《フンボルトの贈物》(1975)でも,シカゴとブカレストという二つの都市生活の対比のうちに現代を代表する政治体制の荒廃の姿を描いた《学生部長の十二月》(1982)でも,人間性を圧殺する現代世界における人間救済というモラリスティックなベローの創作態度は執拗に続けられている。
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ベロー
bellows

金属薄板製円筒の側壁に多くのしわをつくってちょうちん状にした機械要素。ベローの内部・外部の圧力差の増減に応じて大きく伸縮する性質がある。この性質を利用して流体の圧力の変動を距離(ストローク)の変化に変換する自動制御用要素としての応用がもっとも重要な用途である。このほか,空気ばねとしての用途,圧力容器または管路内へ出入するロッドのまわりからのもれ止めに利用することもある。なお,bellowsという英語はそもそもはふいごや写真機などの蛇腹のことである。
執筆者:

ベロー
Georg von Below
生没年:1858-1927

ドイツ歴史家ケーニヒスベルクに生まれ,ミュンスター,マールブルクチュービンゲン,フライブルクの各大学教授を歴任。近代的法概念を中世に適用することにより,中世ドイツ帝国の〈国家性〉を論証することに努め,中世ドイツ国家史論争を,古典学説をより定式化して確立することによって終結せしめた。領邦制度史,中世都市制度史,農業史,史学史などに多くの著作があり,方法的明晰さと概念的厳密性を武器に,諸問題の明確化のために貢献した。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ベロー」の意味・わかりやすい解説

ベロー
Bellow, Saul

[生]1915.7.10. カナダ,モントリオール近郊ラシーヌ
[没]2005.4.5. マサチューセッツ,ブルックライン
アメリカの小説家。シカゴ大学を経てノースウェスタン大学卒業。諸大学で教鞭をとるかたわら小説を書き,処女作『宙ぶらりんの男』 Dangling Man (1944) ,『犠牲者』 The Victim (1947) によって,ユダヤ系作家の枠をこえて現代人一般の本質に迫る内省的な作家であることを印象づけた。次いで伸びやかな筆で主人公の活躍を描く,ピカレスク風の『オーギー・マーチの冒険』 The Adventures of Augie March (1953,全米図書賞) を発表,この作風は『雨の王ヘンダーソン』 Henderson the Rain King (1959) にも引き継がれた。ほかに『ハーツォグ』 Herzog (1964,全米図書賞) ,『サムラー氏の惑星』 Mr. Sammler's Planet (1970,全米図書賞) ,『フンボルトの贈り物』 Humboldt's Gift (1975,ピュリッツァー賞) ,短編集『モズビーの思い出』 Mosby's Memoirs and Other Stories (1968) ,戯曲『最後の分析』 The Last Analysis (1965) などがある。 1972年来日。 1976年ノーベル文学賞受賞。

ベロー
Below, Georg von

[生]1858.1.19. ケーニヒスベルク
[没]1927.10.21. バーデンワイラー
ドイツの歴史家。 1897年マールブルク,1901年テュービンゲン,05年フライブルクの各大学教授。歴史学派経済史学や唯物論的歴史解釈に強く反対しつつ,ロマン主義に根ざす理想主義的歴史観に立って,きわめて鋭い批判的な方法により,中世ドイツの国制史,社会経済史にすぐれた業績を残した。主著に『ユーリヒ=ベルクの領邦議会制』 Die landständische Verfassung von Jülich-Berg (2巻,1885~86) ,『領邦と都市』 Territorium und Stadt (1900) ,『中世のドイツ国家』 Der deutsche Staat der Mittelalters (第1巻のみ 14,25) ,『経済史の諸問題』 Probleme der Wirtschaftsgeschichte (20) などがある。

ベロー
Belleau, Rémy

[生]1528. ノジャンルロトルー
[没]1577.3.6. パリ
フランスの詩人。 1556年,アナクレオンのオードの翻訳者として詩壇に登場。プレイヤッドの一人に数えられたこともある。代表作は『牧歌詩』 La Bergerie (1565,72) ,『愛と宝石の新奇な転成』 Les Amours et nouveaux échanges des pierres précieuses (76) 。

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化学辞典 第2版 「ベロー」の解説

ベロー
ベロー
bellows

大きな可動性を特徴とする蛇腹に似た図のような構造をもつ機械部品で,リン青銅,低炭素ステンレス鋼,黄銅などの薄い管材料に冷間ダイス圧延加工をして成形されたものが多い.伸び曲げが機械的に自由であり,気密な構造にすれば内外の圧力差により軸方向に伸縮するため,この性質を利用して圧力計,圧力スイッチ,調圧弁,温度制御,回転軸のシール,真空バルブ,ポンプ類,伸縮・可動継手などの部品として用いる.市販のサイズは内径6~800 mm 程度.化学用としては,テフロン製品や金属にテフロンコーティングをしたもの,合成ゴム,プラスチックの製品がある.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

百科事典マイペディア 「ベロー」の意味・わかりやすい解説

ベロー

米国のユダヤ系作家。カナダに生まれ,シカゴに移住。処女作《宙ぶらりんの男》(1944年),ユダヤ人問題を扱う《犠牲者》に続いて,ピカレスク風の小説《オーギー・マーチの冒険》(1955年)や《雨の王ヘンダーソン》(1959年)で,滑稽にしてグロテスクな描写力を示す。《ハーツォグ》(1964年,全米図書賞),《サムラー氏の惑星》(1970年,全米図書賞),《フンボルトの贈物》(1975年,ピュリッツァー賞)など大作を発表。1976年ノーベル文学賞。
→関連項目シンガー

ベロー

ドイツの中世史家。マールブルク,チュービンゲン,フライブルク各大学教授を歴任。鋭い批判的歴史観をもって,ドイツ領邦の発展,封建制と国家の関係,都市制度などの問題を追究した。主著《領邦と都市》《中世ドイツ国家論》《ドイツ中世農業史》。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ベロー」の解説

ベロー
Georg von Below

1858~1927

ドイツの歴史家。封建制の公法的機能と中世国家の国家性の論証を主たるテーマとして,ドイツ中世の法制史および社会経済史の研究に卓越した業績を残した。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のベローの言及

【シンガー】より

…ワルシャワで文筆生活の後,1935年アメリカに亡命,イディッシュ語新聞《フォワード》の編集のかたわら同紙に小説を発表。53年《ギンペルの馬鹿》がソール・ベローによって英訳され,注目をあびた。作品はすべてイディッシュ語で書かれ,古いポーランドのユダヤ人村落を題材にしたものが多く,聖と俗,現実と幻想の交錯する悪魔的な官能の世界を描き,愛と信仰の問題を追究している。…

※「ベロー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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