ホフマン(Jules Alphonse Hoffmann)(読み)ほふまん(英語表記)Jules Alphonse Hoffmann

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ホフマン(Jules Alphonse Hoffmann)
ほふまん
Jules Alphonse Hoffmann
(1941― )

フランスの生理学者(生物学)。ルクセンブルグに生まれる。ストラスブール大学で生物学と化学で学士号を取得後、1969年同大で博士号取得。1974年からフランス国立科学研究センター(CNRS:Centre national de la recherche scientifique)の研究チームの責任者として活動。1993年からフランス国立科学研究センターの付属研究所である細胞分子生物学研究所(IBMC:Institut de biologie moléculaire et cellulaire)で細胞バイオロジー学会の責任者を務める。ストラスブール大学客員教授、フランス科学アカデミー会長を務めた。2011年に「自然免疫の活性化に関する発見」の業績により、ブルースボイトラーとノーベル医学生理学賞を共同受賞した。

 免疫には、生まれながらにして保有する免疫(自然免疫)と、いろいろな抗原にさらされて後天的に獲得する免疫(獲得免疫)とがあるが、ホフマンはおもに自然免疫の仕組みの解明に貢献した。人間の免疫機構では、外から体内に侵入してきたウイルス病原細菌などを、白血球T細胞が認識してB細胞抗体を作製させている。この抗体や別の免疫細胞を働かせて病原体を排除しており、これが獲得免疫のメカニズムとされてきた。B細胞は、同じ抗体をいつでも作製できるように記憶しており、T細胞が獲得免疫の司令塔役割をすると考えられていた。

 1973年、アメリカの生理学者ラルフ・スタインマンは新たな免疫細胞を発見し「樹状細胞」と名づけた。ボイトラーらは、この樹状細胞を詳しく研究、樹状細胞が皮膚など全身に存在し、ウイルスや細菌の侵入を探知すると、仲間の細胞をよび集め細菌やウイルスを攻撃することをつきとめた。さらに1996年、ホフマンらはショウジョウバエを用いた実験により、ある遺伝子(Toll(トール)遺伝子とよばれる)がカビの感染を防御していることを発見した。1998年ボイトラーは、ヒトやマウスの樹状細胞にも同様の遺伝子があり、それをもとに作製されるタンパク質が病原体を探知するセンサーの役割をしていることも発見。樹状細胞の発見と研究は、自然免疫とよばれることになる新しい免疫機構の究明に寄与した。また、これらの研究成果により、獲得免疫機構においても、T細胞に抗体作製の指令を出しているのは樹状細胞であることもわかってきた。スタインマン、ボイトラー、ホフマンらによって免疫のメカニズムが明らかにされ、免疫療法などの分野への可能性が広がった。なお、スタインマンも「樹状細胞と獲得免疫におけるその役割の発見」により、ともにノーベル医学生理学賞を受賞している。

[馬場錬成]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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