ホール(Jeffrey Hall)(読み)ほーる(英語表記)Jeffrey Hall

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ホール(Jeffrey Hall)
ほーる
Jeffrey Hall
(1945― )

アメリカの遺伝学者、時間生物学者。ニューヨーク州ブルックリン生まれ。1969年アマースト大学卒業、1971年ワシントン大学(シアトル)で遺伝学の博士号を取得。カリフォルニア工科大学(CIT、Caltech(カルテック))での博士研究員を経て、1974年にブランダイス大学助教授、1986年に同大学教授。退職後、2004年からメーン大学で非常勤教授、2008年から2010年まで同大学教授。現在、ブランダイス大学およびメーン大学名誉教授。

 ホールはカリフォルニア工科大学で、ショウジョウバエ求愛など行動突然変異体の研究で知られる遺伝学者シーモア・ベンザーSeymour Benzer(1921―2007)教授の指導を受けた。ベンザーらは、ショウジョウバエのある遺伝子が変異を起こすと、生物が約24時間周期で変動する生理現象「サーカディアンリズム」(概日(がいじつ)リズム)が破壊されることを示した。ベンザーらはこの概日リズムを制御する時計遺伝子がX染色体の一定領域にあることを突き止め、「period(ピリオド)」と命名した。ホールは、1974年、ブランダイス大学で同僚となったマイケル・ロスバッシュと、共同でショウジョウバエを使ったサーカディアンリズムの研究に取り組み、1984年に時計遺伝子「period」のクローニング(遺伝子同定)に世界で初めて成功した。2人はその後も、periodが活発化しmRNAが発現すると、細胞質に24時間周期でタンパク質「PER」が産生されることを発見した。そして、PERが夜に多くつくられ、日中に核内に取り込まれ減少することを突き止めた。また、2人と同じ時計遺伝子の研究をしていたロックフェラー大学教授のマイケル・ヤングは、このPERが核内に取り込まれ、24時間の時を刻むのに深くかかわる遺伝子「timeless(タイムレス)」「doubletime(ダブルタイム)」をみつけ、時間生物学は飛躍的に進歩した。こうした研究成果はショウジョウバエだけでなく、人間など高等生物でも確認されている。体内時計を生み出す遺伝子は、体温血圧、ホルモン分泌、睡眠など生物の恒常性維持にかかわる生理現象を制御している。

 2009年グルーバー賞、2012年にガードナー国際賞、2013年ショウ賞。2017年に「サーカディアンリズムを制御する分子メカニズムの発見」の業績で、マイケル・ヤング、マイケル・ロスバッシュとノーベル医学生理学賞を共同受賞した。

玉村 治 2018年2月16日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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