ボース=アインシュタイン凝縮(読み)ボースアインシュタインぎょうしゅく(英語表記)Bose-Einstein condensation

改訂新版 世界大百科事典 の解説

ボース=アインシュタイン凝縮 (ボースアインシュタインぎょうしゅく)
Bose-Einstein condensation

相互作用のないボース粒子N個が体積Vの容器の中に入れられているとしよう。粒子と壁との衝突は弾性衝突であるとすると,各粒子のエネルギーεは時間的に一定になる。粒子の質量m運動量pとすると,ε=p2/2mである。ボルツマン統計力学古典統計力学)によれば,この粒子集団が絶対温度Tの熱平衡状態にあるとき,運動量p=(pxpypz)の各成分がpαpαdpα(α=xyまたはz)の間にあるような粒子の数は,マクスウェル=ボルツマン分布で与えられる。ここにnp)は分布関数kボルツマン定数である。これによれば,εが小さいほどnp)は大きくなる。しかし最低エネルギーε0=0(すなわちp=0)をとる粒子の数がずぬけて大きくなることは,絶対0度でないかぎりあり得ない。こうした古典論が成り立つのは高温ないし低密度の場合,すなわち,のときである(hプランク定数)。これに反し,上式の両辺の大きさが接近してくると,粒子の量子性が顕在化してくる。量子論では,箱の中で粒子のとり得るエネルギーの値は連続量ではなく,とびとびになって,運動エネルギーの最低値はε0=(3/8m)(h/L2になる(L立方体の箱の1辺の長さ)。巨視系ではε0≅0としてよい。エネルギー固有値がεであるような一つの量子状態に存在する粒子数の平均値は,ボース=アインシュタイン分布により,になる(μは化学ポテンシャル)。よほどの低温,高密度にならないうちはμ<ε0であり,どの量子状態も格別多数の粒子に占められることにならない。巨視系では(2πmkT/h23/2の値が(N/V)×0.3828にまで下がるとμ=ε0となり,それ以下の温度(ないし高密度)では,最低エネルギーε0をとる粒子数がずぬけて大きくなる。ずぬけて大きくなるという意味は,アボガドロ数~6×1023と比較できる大きさ(例えばその1万分の1くらい)になるということである。これは最低エネルギーε0の状態に巨視的な数の粒子が落ち込んでしまったことを意味し,この現象をボース=アインシュタイン凝縮,あるいはボース凝縮と呼んでいる。ボース粒子集団の基底状態は全粒子がε0に落ち込んでしまった状態になっているが,有限温度でも,十分低温であるかぎり,ε0を占めている粒子の数が巨視的大きさを保っているということがボース=アインシュタイン凝縮なのである。凝縮ということばは,エネルギー準位を書いてみたとき,そこにばらまかれた粒子の分布が最低準位ε0にたまるというイメージに由来する。

 二次元や一次元の世界(平面内や1直線上でしか運動できないボース粒子系)ではボース=アインシュタイン凝縮は起こらない。基底状態が凝縮しているのは当然であるが,どんな低温でも,完全にT=0でないかぎりこの凝縮は崩れてしまうのである。

 ボース=アインシュタイン凝縮の例として,4Heの液体超流動状態があげられることがある。しかし4He原子の間には弱いファン・デル・ワールス引力のほかに,お互い電子雲の中にめり込めないという性質があり,相互作用無視というわけにいかない。しかしそれでも,ある温度Tc以下で最低エネルギーの1粒子状態への凝縮が起こるという性質は保持されていて,これが超流動の前提となっていることは確かである。4Heの例では,基底状態でさえ,p=0以外の運動量をもつ粒子が存在している。しかしまたそれゆえにp=0に凝縮した粒子集団の波動関数に明確な位相を生み出すことが可能になり,この位相の確定ゆえに超流動が発生するのである。ボース=アインシュタイン凝縮即超流動ではないが,この凝縮のないところにボース液体の超流動はあり得ない。
超流動
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 の解説

ボース=アインシュタイン凝縮
ボース=アインシュタインぎょうしゅく
Bose-Einstein condensation

ボース凝縮ともいう。ボース統計に従う多くの粒子から成る系で,ある量子力学的な一粒子状態を占める粒子数の平均が全粒子数と同じ程度になった状態をいう。この現象は 1925年 A.アインシュタインによって初めて指摘された。すなわち,理想ボース気体では絶対零度においてすべての粒子が運動量ゼロの最低エネルギー状態に落ち込むこと,また転移点以下の温度では最低エネルギー状態を占める粒子の平均数が全粒子数と同程度であることを示した。液体,固体への凝縮が実空間における凝縮であるのと違って,ボース=アインシュタイン凝縮は運動量空間での凝縮である。ボース=アインシュタイン凝縮の概念は O.ペンローズ,L.オンサーガーによって相互作用のある粒子系にも拡張され,全粒子数と同じ程度の平均数をもった一粒子状態が巨視的な規模で現れた量子力学的波動関数という形で表現される。液体ヘリウム4の超流動状態はヘリウム4原子がこのような意味でボース=アインシュタイン凝縮した状態である。また固体中のエキシトン (励起子 ) のボース=アインシュタイン凝縮の可能性も予想されている。 1995年にはルビジウムのボース=アインシュタイン凝縮が磁気トラップ中に実現され,以後ナトリウム,リチウム等のアルカリ原子に対しても実現されている。この場合,運動量空間での凝縮ではなくトラップポテンシャルと原子間の力で決る基底状態への凝縮と考えられる。 (→超流動ヘリウム4 )

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