ポリエステル繊維(読み)ポリエステルせんい(英語表記)polyester fiber

改訂新版 世界大百科事典 「ポリエステル繊維」の意味・わかりやすい解説

ポリエステル繊維 (ポリエステルせんい)
polyester fiber

分子内に二つのカルボキシル基-COOHをもつジカルボン酸と二つの水酸基-OHをもつジオールから脱水して重縮合反応によって作られるポリエステルを繊維化したもの。工業的には,テレフタル酸エチレングリコールを重縮合させて作られるポリエチレンテレフタレートからの繊維が大部分を占める。

イギリスのキャリコ・プリンターズ・アソシエーションCalico Printers'Associationの2人の化学者,ウィンフィールドJ.R.WhinfieldとディクソンJ.T.Dicksonによってポリエチレンテレフタレートが発明されたが,これをイギリスのICI社およびアメリカのデュポン社がその特許を基に企業化し,1953年ポリエステル繊維が作られた。

 染色性の向上のため,2~3モル%の3,5-ジ(カルボメトキシ)-ベンゼンスルホン酸ナトリウムを加えてポリエステルを合成すると,塩基性染料に染まりやすくなる。類似のジカルボン酸成分も使われている。

 4mm角くらいのチップの形に製造されたポリエチレンテレフタレートは紡糸建屋のホッパーに入れられ,紡糸機へ送られる。ポリマーは溶融紡糸法で紡糸される。すなわちポリマーは溶融され,円形の孔をもった紡糸口金から毎分1000m以上の速度で押し出されると直ちに固化し,シリンダーに巻き取られる。次に延伸ツイスト機にかけられて,熱延伸によって元の約5倍の長さに延伸される。このとき繊維内部で高分子の配向が起こり,強度が非常に上がる。2種のポリエステル繊維,すなわち織物用の普通強度の糸(繊維を束ねた)と工業用の高強度の糸が,この延伸の度合を変えることによって製造される。ステープルは多くのフィラメントを紡糸して,熱処理で縮れをつけたりした後に数cmくらいの長さに切断して作られる。つや消し糸は酸化チタンを加えて紡糸される。ポリエステルの融点は249℃,引張強さは4.5~7.5gf/デニール比重は1.38,吸湿度は0.4%(標準状態)である。種々の特性から最も優れた衣料用の合成繊維であり,製造量は合成繊維のなかで最も多く,また増加している。
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百科事典マイペディア 「ポリエステル繊維」の意味・わかりやすい解説

ポリエステル繊維【ポリエステルせんい】

ポリエチレンテレフタレートを溶融紡糸して得られる合成繊維。英国のJ.R.ウィンフィールドとJ.T.ディクソンが1941年に開発した。戦後英国のICI社と米国のデュポン社(デュポン財閥)がその特許をもとに商品化し1953年に発売。社吸湿性が少なく,耐酸性,耐熱性,耐光性,電気絶縁性がすぐれ,衣料用として広く利用されるほか,絶縁材料,ロープ類等工業的用途も多い。商品名は英国でテリレン,米国でダクロンのほか日本でテトロン等。
→関連項目化学繊維工業クラレ[株]ダクロンテトロンテリレンポリエチレンテレフタレート

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ポリエステル繊維」の意味・わかりやすい解説

ポリエステル繊維
ポリエステルせんい
polyester fibre

エステル結合 (-CO-O-) をもつ重合体ポリエステルを主として含む長鎖状合成高分子を紡系して得られる繊維。一般に,テレフタル酸とエチレングリコールの重縮合体であるポリエチレンテレフタレートを溶融紡糸したもの。 1941年イギリスで開発され,イギリスの ICI社はテリレンの商品名で工業化,アメリカのデュポン社ではダクロンの商品名,日本ではテトロンの商品名で製造,販売している。引張り強度が大きく,耐熱性,耐光性が良好。電気絶縁性,耐酸性,防虫性もよく,耐皺性もあり,衣料用として背広,ワイシャツ,家庭用にカーテン,洋傘,産業用に消火用ホース,漁網など広い用途をもち,特に射出成形品は各種のエンジニアリングプラスチックとして利用されている。ポリエステル繊維の生産量は需要増大とともに伸び,70年にはナイロンを抜いて第1位を占めるにいたった。

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世界大百科事典(旧版)内のポリエステル繊維の言及

【化学繊維】より

…ナイロン繊維の成功は,その後に合成高分子産業を興したのみならず,人々に化学に対する大いなる希望を与えた。 イギリスでウィンフィールドJ.R.WhinfieldとディクソンJ.T.Dicksonが発明し,50年にICI社が企業化したポリエステル繊維は,衣料用として優れた性質を有することがわかり,今日では世界で最も多く製造される合成繊維となった。イギリスではテリレンTerylene,アメリカではダクロンDacron,日本ではテトロンTetoronの商標で売られたが,多くの会社で作られるようになり,ポリエステルと一般的に呼ばれている。…

【繊維工業】より

…さらに,57年以降アクリル繊維の企業化が相次ぎ,57年に鐘淵化学が,58年には日本エクスラン(東洋紡績と住友化学工業の共同出資会社)が,59年には三菱ボンネル(三菱レイヨン,三菱化成工業(現,三菱化学),アメリカのケムストランド社の共同出資会社)と旭化成が,それぞれ生産を開始した。また,ポリエステル繊維については,東レと帝人が共同でイギリスのICI社から技術導入し,1958年から相次いで生産を開始した。60年代になると,ナイロン,ポリエステル,アクリルという三大合繊の生産に後発企業が参入し,70年までには大手による主要合繊の生産体制が確立した。…

※「ポリエステル繊維」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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