日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
マイヤー(Conrad Ferdinand Meyer)
まいやー
Conrad Ferdinand Meyer
(1825―1898)
ドイツ語圏スイスの詩人、小説家。チューリヒの門閥家系に生まれるが、父の死後敬虔(けいけん)なカルバン主義の信仰をもつ母親によって厳しい教育を受け、繊細で夢想的な素地を生かすことができず、自殺の衝動を伴う神経症に悩む不幸な青年期を過ごした。母親の自殺(1856)を契機としてようやく自己回復の端緒をつかんだ彼は、イタリア旅行におけるミケランジェロ体験によって、心理的葛藤(かっとう)の視覚的表出という課題をみいだすとともに、ドイツの文芸理論家テオドール・フィッシャーのリアリズム理論の導きのもとに、独自の詩的表現の模索を続けた。
1871年叙事詩『フッテン最後の日々』が時代の政治的状況に投じて成功を収めたのち、20年間に11編の小説を発表したが、いずれもルネサンス、バロック期に取材した歴史小説であり、孤絶した歴史的形姿(トーマス・ベケット、グスタフ・アドルフ、ダンテなど)の内面を象徴的に描き出している。一方『詩集』(1882)では、ロマン派以来の豊かな詩的形象を堅固な言語形式に盛り込むことに成功し、ゲオルゲ、ホフマンスタールに始まる現代ドイツ詩の先駆をなしている。
[白崎嘉昭]
『高安国世訳『マイヤァ抒情詩集』(岩波文庫)』▽『浅井真男訳『フッテン最後の日々』(岩波文庫)』▽『C・F・マイヤー、J・ゴットヘルフ他著、スイス文学研究会編訳『スイス十九世紀短編集』(1978・早稲田大学出版部)』