マダニ感染症(読み)まだにかんせんしょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マダニ感染症」の意味・わかりやすい解説

マダニ感染症
まだにかんせんしょう

マダニ類がヒトや動物に寄生して吸血することで媒介される感染症。マダニ類媒介感染症ともいう。マダニ類は日本では47種の生息が確認されている。成虫だけでなく幼虫や若虫も吸血性で、野山の植物の葉陰に生息して野生動物や家畜にも寄生するため、春から秋にかけての活動期には注意が必要である。ヒトに寄生する部位は頭部や首、肩や腕、胸部や腹部などが多く、かまれた直後は自覚症状がないが、数日して炎症とともにかゆみや痛みが現れる。発症すると発熱などの全身症状や、下痢や嘔吐(おうと)および食欲低下などの消化器症状のほか、頭痛や筋肉痛、意識障害、呼吸不全、出血などを伴うこともある。

 2013年(平成25)、日本では初めて、山口県で、マダニにかまれて発症するウイルス感染症で血小板白血球の減少をきたす重症熱性血小板減少症候群SFTS:severe fever with thrombocytopenia syndrome)が確認され、その後、西日本の複数の県で死亡者が出た。SFTSはフタトゲチマダニタカサゴキララマダニなどが媒介すると考えられているが、さらにほかのマダニ類の媒介も疑われている。かまれてもかならずしも発症しないが、リケッチア細菌病原体となるものが薬物治療可能なのに対して、現状ではワクチンも確立された治療法もないので、死に至ることも多い。

 SFTSのほかによく知られるマダニ感染症として、高熱や発疹(ほっしん)を伴う日本紅斑熱、発熱と頭痛および乾性咳(がい)を伴うQ熱などがあり、これらはリケッチアが病原体となる。ほかに細菌が病原体となるものに、リンパ節炎を伴う野兎(やと)病、発熱と頭痛や筋肉痛を伴うボレリア症などがあり、またウイルスが病原体となるものにSFTSのほか、ダニ媒介性脳症、発熱や頭痛に出血を伴うクリミア・コンゴ出血熱がある。

[編集部]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

知恵蔵 「マダニ感染症」の解説

マダニ感染症

マダニが媒介する感染症の総称。重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、日本紅斑熱、回帰熱、ライム病、ダニ媒介性脳炎、クリミア・コンゴ出血熱などが知られている。多くはこれらの感染症の病原体をもつマダニに咬(か)まれて感染するが、感染した小動物などとの接触によって二次感染したとみられるケースも報告されている。
上に挙げた感染症のうち、クリミア・コンゴ出血熱以外は日本でも感染例の報告がある。これまでのところ国内感染例のあるものの中で最も死亡数の多いのがSFTSで、国立感染症研究所によれば全数把握対象の感染症に指定された2013年から17年8月30日までの間に298の感染例があり、そのうち59例が死亡している。
日本紅斑熱、回帰熱、ライム病は抗菌薬が効くが、SFTSやダニ媒介性脳炎には特に有効な薬や治療法がないため対症療法をおこないながら回復を待つことになる。最も大事なのは、マダニに咬まれないようにすることである。
日本では47種のマダニが確認されており、その多くがシカやイノシシ、ウサギなどの野生動物が出没する環境に生息し、草むらや畑、田んぼのあぜ道などにもいる。野外に出るときには、肌をできるだけ露出させないよう、長袖、長ズボン、手袋を着け、首もタオルなどを巻くかハイネックのシャツを着るようにすること。また、ダニが皮膚に付いているのを見つけた場合は、無理に剥がすとダニの口だけ残って化膿(かのう)することもあるので、皮膚科を受診し処置してもらう必要がある。なお、マダニ感染症には数日から数週間の潜伏期間がある。マダニに咬まれたら数週間にわたり、発熱や発疹といった体調の変化がないか注意し、症状がみられたらすぐに医療機関を受診するよう厚生労働省では呼びかけている。

(石川れい子 ライター/2017年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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