マリ(シリアの都市遺跡)(読み)まり(英語表記)Mari

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

マリ(シリアの都市遺跡)
まり
Mari

ユーフラテス川中流右岸、イラク国境に近いシリア領、アブ・カマル近郊の古代の都市遺跡。1933年以降(1935~38、1951~54)、A・パロの指揮するフランスの調査隊が、都市遺跡を掘り起こした。その遺跡・遺物は、ジェムデト・ナスル期(前3000前後)からササン朝時代にわたっている。同地は、交易および軍事上の拠点として発展し、とくにシュメール初期王朝時代とハンムラピハムラビ)の治世(前18世紀)にもっとも繁栄した。遺跡からは、シュメールの影響を受けて建造されたイシュタル神殿、シャマシュ神殿や、各時代の宮殿跡、ジッグラト(神殿塔)などが発見され、注目をひいた。彫刻など美術品にはシュメールの伝統が保存されているのに対し、言語は早くからセム語が使用されていた。なかでも紀元前18世紀の宮殿の壁画や美術品はエーゲ文明圏との緊密な関係を伝える貴重な史料である。マリ王国は、アッシリア王シャムシ・アダド1世(在位前1813~前1781)に征服され、同王のもとで繁栄、同1世の子ヤスマク・アダドをマリ王に任じマリを支配(~前1781)、ついでマリの王子ジムリリムがマリを再建し、ハンムラピの援助を得て交易活動はクレタ島まで及んだが、ハンムラピに滅ぼされた(前1761/51)。シュメール時代の神殿やジムリリム王の王宮付属文庫から発見された外交文書を含む2万5000枚余の楔形(くさびがた)文字アッカド語で記された『マリ王室文書』(1946~67公刊)は、ハンムラピの治世年代を決定するうえに役だったのみならず、前19~前18世紀の国際関係および社会経済史を解明するうえに重要な史料である。

[高橋正男]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android