マン(Heinrich Mann)(読み)まん(英語表記)Heinrich Mann

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

マン(Heinrich Mann)
まん
Heinrich Mann
(1871―1950)

ドイツの作家。リューベック生まれ。トーマス・マンの兄。ミュンヘンベルリン大学に学ぶ。初期には新ロマン主義、新保守主義を唱えたが、しだいに社会批判の鋭い小説とデモクラシーを訴える評論で活躍する。『怠け者天国で』(1900)はベルリンの出版界の腐敗をつく小説。1893年以降数年間のイタリア滞在から生まれた作品のうち『女神(めがみ)たち』(1903)は自由・美・愛を非市民的存在形態として賛美し、ニーチェの影響の濃い作品だが、『小都市』(1909)では民衆を初めて描く。ウィルヘルム2世治世下のドイツを扱う作品『ウンラート教授』(1905)および『臣下』(1914)、『貧民』(1917)、『指導者』(1925)の三部作では、権力に弱いドイツ人を戯画化した。第一次世界大戦中には、ドイツの侵略を弁護した弟のトーマスや多くの知識人に対して、『ゾラ論』(1915)によって反論ワイマール共和国の時期にも、軍国主義の克服、フランスとの協調を訴えた。1933年ナチスに追われてフランスに亡命。フランスで反ファシズム活動の中心的人物となる。同時に『アンリ4世の青春』(1935)、『アンリ4世の完成』(1938)において、民衆を信じ国民の統一全力を尽くしたこの国王苦難生涯を描いて、歴史小説でアクチュアルな課題にこたえた。1940年渡米後は、窮乏生活を強いられたが、そのなかで小説『リディーツェ』(1943)、回想録『一時代の点検』(1945)などを書く。1950年、ドイツ民主共和国東ドイツ)で創立された芸術アカデミーの会長に選ばれ、ベルリンに帰る準備を整えたが、出発直前、ロサンゼルスの近郊サンタ・モニカで死亡した。

[長橋芙美子]

『小栗浩訳『歴史と文学』(1971・晶文社)』『片岡啓治訳『息吹き』(1972・恒文社)』『小栗浩訳『アンリ四世の青春』新装版、『アンリ四世の完成』(1989・晶文社)』『三浦淳他訳『ハインリヒ・マン短篇集』1~3巻(1998~2000・松籟社)』『山口裕訳『小さな町』(2001・三修社)』『山口裕著『ハインリヒ・マンの文学』(1993・東洋出版)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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