マードック(読み)まーどっく(英語表記)Jean Iris Murdoch

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

マードック(Jean Iris Murdoch)
まーどっく
Jean Iris Murdoch
(1919―1999)

イギリスの女流小説家。ダブリン生まれ。オックスフォード大学を卒業後、母校の哲学講師を15年間務める。批評家ジョン・ベイリーJohn Bayley(1925―)は夫。評論『サルトル、ロマン主義的合理主義者』(1953)に次いで出た処女長編『網のなか』(1954)は、レーモン・クノーを思わせる知的な構成を軽やかな滑稽(こっけい)さとふくよかな叙情性を備えたどたばた喜劇で、読書界は喝采(かっさい)を送った。続いて『魅惑者からのがれて』(1956)、『砂の城』(1957)と、イギリス風俗小説と現代フランスの実存主義小説の融合したような味わいの作品を発表、人間関係の稠密(ちゅうみつ)な組合せの実験を行った。第四作『鐘』(1958)はそうした試みの頂点といえよう。
 その後、作風は黒いユーモアやグロテスクな設定に傾き、『切られた首』(1961)、『一角獣』(1963)、『イタリア女』(1964)などのようなゴシック小説風の作品が多くなったが、『偶然にもてあそばれる男』(1971)では笑いと叙情性とが大きな哲学的な主題に結び付いた、本来の彼女の調子にふたたび戻った。その後も謎(なぞ)解きの要素をもつ『ブラック・プリンス』(1973)、シェークスピアの『あらし』を枠組みにした『海よ、海』(1978。ブッカー賞受賞)、『哲学者の弟子たち』(1983)など、ほとんど毎年一作を送り出し、しかも水準以上の問題をはらんだ作品を執筆し続ける現代イギリスでもっとも力ある作家であった。1997年、夫によってアルツハイマー病にかかった旨が宣言され、世界の読書界に衝撃を与えた。[出淵 博]
『野中涼著『アイリス・マードック』(1971・研究社出版) ▽蛭川久康著『アイリス・マードック――幻想の不毛から愛の豊饒へ』(1979・冬樹社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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