ミル(James Mill)(読み)みる(英語表記)James Mill

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ミル(James Mill)
みる
James Mill
(1773―1836)

イギリスの経済学者、哲学者。J・S・ミルの父。スコットランドのノースウォーターブリッジ村の靴屋の子として生まれる。郷土の有力者の後援エジンバラ大学に入学、神学、哲学を学び、1797年に卒業。牧師の資格を得たがその職になじめず、1802年ロンドンに出て、文筆業に携わった。1804年には『穀物輸出奨励金の不得策に関する一論』、1808年には『商業擁護論』を発表、自由貿易意義を説くとともに、生産したものはかならず消費されるのだから生産過剰はありえないという、いわゆる「ミルの販路説」(一般には「セー法則」として知られる)を展開して、商工業の生産性と安全性を主張し、農業保護を唱える農業者と地主階級を攻撃した。また、同年J・ベンサムに出会い、以来ベンサムを師と仰いで親交するとともに、F・プレースやD・リカードらと交遊することによって、ベンサムの功利主義思想の普及に従事した。彼が息子のジョン・ミルに功利主義思想の継承者になることを期待して、並はずれた早教育を施したことは有名である。1818年には、10余年を費やした大著『英領インド史』が完成、それが機縁で東インド会社に職を得た。1821年出版の『経済学綱要』は、イギリスで最初四分法(生産、分配交換、消費)を採用した教科書として知られる。また、連想心理学を発展させた『人間精神の現象分析』(1829)などの著作がある。

[千賀重義 2015年7月21日]

『渡辺輝雄訳『経済学綱要』(1948・春秋社)』『岡茂男訳『商業擁護論』(1965・未来社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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