ムラド(英語表記)Murad, Nadia

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ムラド」の意味・わかりやすい解説

ムラド
Murad, Nadia

[生]1993. コチョ
イラクの人権活動家。イラク北部,シンジャール山近くの村でクルド人ヤジーディー教徒(→ヤジーディー教)として生まれ育つ。2014年8月15日,「イスラム国」(IS)が異教徒であるヤジーディー教徒の殲滅をはかって集落を襲った際に捕えられた。母や兄弟らは殺され,ムラドなど若い女性や少女たちは性奴隷にされた。ムラドは数ヵ月間,性奴隷として何人もの間で売り買いされたが,すきをみて逃げ出し生還した。性暴力被害を恥とみなす社会の目があるために被害者のほとんどが沈黙するなか,ムラドは,恥ずべきは加害者であり被害者ではない,と紛争と性暴力の問題を訴える活動を始めた。2015年12月に国連安全保障理事会会合で行なった人身売買に関する証言では,ヤジーディー教徒の苦しみや ISの恐怖だけでなく,紛争の武器としての性暴力は IS特有のものではないという事実に注目が集まった。2016年には人身売買サバイバー国連親善大使となり活動をさらに広げた。また,自身の経験を綴った回想録を執筆し,女性と少数民族の権利を擁護し支援するための組織を立ち上げた。2018年,性暴力がこれ以上戦争や紛争で戦術として使われないようにするため尽力したことにより,コンゴ民主共和国の医師デニ・ムクウェゲとともにノーベル平和賞(→ノーベル賞)を受賞した。

ムラド
Murad, Ferid

[生]1936.9.14. インディアナ,ホワイティング
アメリカの薬理学者。 1965年オハイオ州クリーブランドのウェスタン・リザーブ大学 (現ケース・ウェスタン・リザーブ大学) で博士号を取得。バージニア大学 (1975~81) ,スタンフォード大学 (81~89) などを経て,90~92年にはイリノイのアボット研究所で副所長をつとめた。バージニア大学在任中の 1977年,狭心症治療薬として用いられていたニトログリセリンから発生する一酸化窒素 NOが,血管拡張に関係していることを発見,NOが細胞の機能を調節しているのではないかと推測したが,当時はそれを実証できなかった。 86年 R.F.ファーチゴットと L.J.イグナロがそれぞれ,体内での NOの働きに関する画期的な発表を行なったことで,それまで大気汚染物質としかみられていなかった NOの有益な働きを敗血症や癌などの治療に応用する試みが始った。男性の性的不能治療薬「バイアグラ」もその過程で生れたものである。 98年ファーチゴット,イグナロとともにノーベル生理学・医学賞を受賞。

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