メノウ

改訂新版 世界大百科事典 「メノウ」の意味・わかりやすい解説

メノウ (瑪瑙)

石英のごく微細な結晶が集合したものをいう。そのため半透明状となり,主として塊状で産出する。成分SiO2,モース硬度7,比重2.60,屈折率1.53で,色が比較的一様で無地なものを玉髄(カルセドニーchalcedony),縞目のあるものをメノウ(アゲートagate)と分類することもあるが,一般には両方をいっしょにして〈メノウ〉と称している。世界各地に産するが,貝殻状剝離を示し,剝片は薄く鋭利な縁をもつため,北アジアやインドなどでは石鏃や小型の石刃の材料とされたほか,色の美しいものは古くから装身具として多く加工された。日本でも仏典の中の七宝の一つに入れられ珍重されてきた。産出原石の形状は腎臓状を示すことが多く,それが馬の脳に似ているところから馬脳すなわち瑪瑙と名づけられた。アゲートの名称は,それが古代に発見されたイタリアのシチリア島の小さな川の名Achatēsに起源するとされる。白色もしくは淡灰色のホワイト・カルセドニーは,おもに着色処理石の原料となる。宝石用となるものは淡青色のブルー・カルセドニーといい,赤色で色の一様(無地)のものはカーネリアンcarnelianという。また赤白縞メノウをサードニックスサードオニックスsardonyxといい,夫婦の幸福,和合を象徴し,8月の誕生石である。赤褐色のものは,縞目の有無にかかわらずサードと呼ばれる。ニッケル分によりアップル・グリーン(青リンゴ)色を示すクリソプレーズchrysopraseはオーストラリア特産で,ヒスイに似ているためにオーストラリア・ジェードと称せられることもある。黒色のものは縞目の有無に関係なくブラック・オニックスと呼ばれる。オニックスonyxは本来,ギリシア語で人の爪を表し,爪の半月形の白色とピンク色の感じから宝石の縞目の意味にも使用された。メノウ類は微細な結晶の間に微孔組織を残すために,天然の場合と同じような着色成分(おもに金属酸化物)を人工的に,その組織間に沈着させて着色を行うことが可能である。現在,メノウ製品では,天然産のブルー・カルセドニー,クリソプレーズなどを除けば,ほとんどが人工着色によるものである。赤色(鉄,Fe2O3),緑色(クロム,Cr2O3),青色(シアン鉄),コバルト青色(コバルト,CoO),黄色(クロム酸),黒色(炭素)などに着色されているが,天然成分と同じ無機顔料なので,安定していて永久性があるため,価値的には天然石とまったく同一に取り扱われる。その他,クロライトchlorite(緑泥石)や酸化マンガン鉱物が内包されて苔状もしくは草木状模様を示すモス・アゲートmoss agate(苔メノウ)など各種の名称のアゲートがある。
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プリニウスは《博物誌》第37巻のなかに,ローマ軍と戦ったエペイロス王ピュロスの所持していた珍石について語っている。すなわち〈それは1個の瑪瑙で,その表面に9人のムーサ(ミューズ)たちと竪琴を手にしたアポロンの姿が見える。ムーサたちはそれぞれ持物をもった姿で描かれているが,これを描いたのは人間の手ではなく,自然に生じた宝石の石理(いしめ)が,そのような形に見えるのである〉と。これはいわゆる〈形象石lapides figurati〉で,なぜ石の切断面にいろいろな物の形が見えるのかについては,J.ガファレルやU.アルドロバンディをはじめとする16,17世紀の博物学者によって何度となく論議されてきた。《和漢三才図会》の〈馬脳〉の項にも,〈其ノ中ニ人物,鳥,獣ノ形有ルモノ最モ貴シ〉とあるところを見ると,こうした珍石はヨーロッパばかりでなく,日本でも昔から知られていたということになる。プリニウスはまた,数多くある瑪瑙の種類のなかには,クモやサソリの毒に対して効能のあるものもあると述べている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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