日本大百科全書(ニッポニカ) 「モザイク(遺伝)」の意味・わかりやすい解説
モザイク(遺伝)
もざいく
mosaic
生物の体の部分が場所により二つ以上の遺伝的に異なる形質が入り混じった状態になる現象、またはその個体をいう。生物の体の中にこのような遺伝的に異なった部分ができる原因としては、発生の過程において、核内または核外遺伝子の突然変異や染色体の組換え、染色体の構造や数の変化がおこり、このような変化をおこした細胞の子孫が、ほかの変化をおこさない細胞の子孫と共存して発育し、体の各部分をつくりあげることによって生ずる。カイコやショウジョウバエなどの昆虫では環境の影響によって、モザイク個体が自然に生ずることもあるが、X線や化学物質の処理によって人為的に高い頻度でつくりだすこともできる。このようなモザイクは、生物の発生における各組織や器官の形成の仕組みを調べるためによく利用されている。
モザイクのなかでも、性染色体の一部の欠失や卵細胞の重複受精など、1個体の中で雌雄の両細胞が共存する性モザイク(雌雄モザイクgynandromorph)は、ミツバチ、ショウジョウバエ、カイコなどの昆虫類のほか、ニワトリなどの鳥類においても数多くみられる。
植物では、トマトとホオズキの接木(つぎき)によって生じた葉や花や果実に両方の組織が入り混じったものや、キンギョソウやオシロイバナにみられる斑(ふ)入りの現象などは、キメラchimeraとよばれるが、モザイクと似た現象である。
[黒田行昭]