日本大百科全書(ニッポニカ) 「モラトリアム(心理学)」の意味・わかりやすい解説
モラトリアム(心理学)
もらとりあむ
moratorium
もともとは「支払猶予」を意味する経済用語。非常事態において債務の決済を一定期間延期し、経済の崩壊を防止する措置のこと。精神分析家のE・エリクソンがこの用語で、子供と大人の中間にあたる青年期の心理的特徴を示唆した。すなわち、青年期というのは単なる子供から大人への過渡期ではなく、それ自身が一つの文化をもつ時期なのである。大人になるためには多くの困難に遭遇するが、モラトリアムは将来のことを顧慮することなく、役割演技などによってさまざまな実験を試み、自己の問題を創造的に展開する時期であり、成長のための猶予期間である。こうしたモラトリアムを提供することで、社会は青年にさまざまな同一視を経験させ、自我同一性(アイデンティティ)の確立をサポートする。日本では、自我同一性を確立できず、いつまでたってもモラトリアムを抜け出せない青年が増加し、否定的な意味で用いられることも多い。
[外林大作・川幡政道]
『小此木啓吾著『モラトリアム人間を考える』(1982・中央公論社)』▽『小此木啓吾著『モラトリアム人間の時代』(中公叢書)』
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