ヤング(La Monte Young)(読み)やんぐ(英語表記)La Monte Young

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ヤング(La Monte Young)
やんぐ
La Monte Young
(1935― )

アメリカの作曲家。アイダホ州ベルン生まれ。1953~1955年ロサンゼルス市立大学、1956~1957年ロサンゼルス州立大学、1958~1960年カリフォルニア大学大学院で作曲などを学ぶ。またロサンゼルス市立大学のクラスメートだったエリック・ドルフィークラリネット演奏を競ったりした。このころビリー・ヒギンズBilly Higgins(1936―2001、ドラム)、デニス・バディミールDennis Budimir(1938― 、ギター)などとジャズ・バンドを組み、ドン・チェリーとも共演した。

 1955~1956年シェーンベルク弟子であるレオナード・ステインLeonard Stein(1916―2004)に対位法、作曲を師事し、1959年にはダルムシュタット国際現代音楽講習会でカールハインツ・シュトックハウゼンに学ぶ。このとき、ジョン・ケージの音楽と思想に初めて触れる。大学院生のときにウェーベルン雅楽の影響を受けた作品『弦楽三重奏』(1958)を作曲。1959年に書かれた『ビジョン』は、13分間という時間の枠を設定し、その間に11の音が鳴らされるようになっており、音を出す間隔ときっかけは、乱数表あるいは電話帳を用いて決定された。その後ヤングは言葉の指示による作品をつくるようになり、シリーズ「コンポジションズ」(1960~1961)は、コンセプチュアル・アートフルクサスに影響を与えた。また1960年ニューヨークオノ・ヨーコのスタジオで、一柳慧(いちやなぎとし)、テリー・ライリーTerry Riley(1935― )らが出演したパフォーマンス・シリーズを監督した。

 1962年グループ「シアター・オブ・エターナル・ミュージック」(永久音楽劇場)を創設。厳格に決められたガイドラインのなかでミュージシャンが電子音のドローン(持続低音)で即興演奏をする『亀、その夢と旅』や『ザ・ウェル・チューンド・ピアノ』(ともに1964)といった大作を生み出す。ヤングは、このグループでソプラノ・サックスと歌を担当し、メンバーにはライリー、ジョン・ハッセルJon Hassell(1937―2021)、リー・コニッツ、デビッド・ローゼンブームDavid Rosenboom(1947― )らがいた。グループの創設がきっかけとなって、ヤングと妻でビジュアル・アーティストのマリアン・ザジラMarian Zazeela(1940― )による「ドリーム・ハウス」(夢の家)プロジェクトが生まれた。これはザジラによる光のインスタレーション環境のもとでヤングらが演奏を行うコラボレーション・プロジェクトで、1960年代から各地で1週間から数年にわたって常設され、とくに1979年から6年間続けられたニューヨーク、ハリソン通り6番地の「ドリーム・ハウス」は評判の高いものであった。

 『ザ・ウェル・チューンド・ピアノ』は世界中で演奏されているが、1987年グラマビジョンから5枚組でリリースされた同作では、完全に調律されたベーゼンドルファー(オーストリア製ピアノ)を使った1981年のライブ演奏が収められている。この作品のピアノは純正調で調律され、それぞれの鍵盤は、最低音の10オクターブ下のEフラットの倍音にそれぞれ対応している。そして、この倍音に基づく調律特有の音響特性によって、ときどきピアノ以外の楽器に似た音色が出現し、まるでホルンやゴングのような響きが立ち上る。また、『ザ・ウェル・チューンド・ピアノ』のそれぞれのセクションはヤングの数学的な能力を発揮してつくられており、数学者の関心をよんだものもある。

 1987年ニューヨークのディア財団が作品の回顧展を行う。その後フランス政府から、ミレニアムを祝うエキシビションに招かれ、アビニョンのサン・ジョゼ教会で4か月間「ドリーム・ハウス」を実施した。

 ヤングの作品はアンビエント・ミュージックやパンク・ロックの先駆とみなされ、ベルベット・アンダーグラウンドの創立メンバーであるジョン・ケイルJohn Cale(1942― )などが「永久音楽劇場」で演奏していた。また、北インドの歌手パンディッド・プラン・ナートPandit Pran Nath(1918―1996)に20年以上にわたって学び、ナートのコンサートをニューヨークでしばしば行い、アルバムもプロデュースした。

[小沼純一]

『La Monte Young, Jackson Mac Low eds.An Anthology(1963, Heiner Friedrich Editions, New York)』

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