結・掬(読み)むすぶ

精選版 日本国語大辞典 「結・掬」の意味・読み・例文・類語

むす・ぶ【結・掬】

[1] 〘他バ五(四)〙
[一] 離れているものをからみ合わせてつなげる。
① 細長いものをからみ合わせてつながるようにする。
(イ) 紐(ひも)や糸などをつなぐ。かたくゆわえる。
万葉(8C後)二〇・四三三四「海原を遠く渡りて年経(ふ)とも児らが牟須敝(ムスベ)る紐解くなゆめ」
(ロ) 松の枝、草などの端をゆわえ合わす。古代の呪術の一つで、魂を結び込めて生命の安全、多幸などを祈る気持の表現とされる。
※万葉(8C後)一・一〇「君が代も吾が代も知るや磐代の岡の草根をいざ結(むすび)てな」
(ハ) 結びめを作る。手紙などをたたんで結び文にする。
※枕(10C終)九五「かしこう縫ひつと思ふに、針をひきぬきつれば、はやくしりをむすばざりけり」
② 手の指をからませたりして形を作る。
(イ) (掬) 両手のひらを一つに組み合わせる。特に、その手で水をすくうのをいう。
※万葉(8C後)七・一一四二「命を幸くよけむと石走る垂水の水を結(むすび)て飲みつ」
(ロ) 仏教で、手指でさまざまな形をつくる。「印を結ぶ」の形で用いられる。→印(いん)③。
古今著聞集(1254)二「定印を結て、居ながら終にけり」
(ハ) 両手で飯をおさえて、握り飯をつくる。
※雑俳・軽口頓作(1709)「むすばるる・下卑で申さばにぎりめし」
(ニ) 指を折っててのひらを閉じる。また、そのようにして手と手をつなぐ。「むすんでひらいて、手を打ってむすんで」
③ 複数の人や物事などがつながりをもつ。
(イ) 人と人との交わりを緊密にする。また、堅くちぎる。言い交わす。契りを交わす。人と物の場合にも用いる。
※万葉(8C後)一六・三七九七「死にも生きも同じ心と結(むすび)てし友やたがはむ我れもよりなむ」
日葡辞書(1603‐04)「エンヲ musubu(ムスブ)
(ロ) 人や物事などをつなぐ。つながりをもつ。関連をもつ。
※善心悪心(1916)〈里見弴〉「種々な対象との間に結(ムス)ばれた困った関係が、根を断たれないで」
④ 情報などを媒介としてつなぐ。関係を密にする。
女工哀史(1925)〈細井和喜蔵〉三「所謂る出張員なる者が本工場と連絡を結んで盛んに活動する」
⑤ 同じ志の人が結束する。集結する。
讚岐典侍(1108頃)下「日かげをもろともに作りてむすびゐさせ給ひたりし事など」
⑥ 開いている口を合わせる。戸口などをしっかりと閉じる。
※くれの廿八日(1898)〈内田魯庵〉五「男は緘黙(むっつり)と口を緊結(ムス)んで凝と考込んで」
[二] まとめて形にする。また、完成させたり、結束をつけたりする。
① ある情況や感情を形づくる。夢として形づくる。
源氏(1001‐14頃)明石「旅衣うらかなしさにあかしかね草の枕は夢もむすばず」
② 花を結実させる。実らせる。
※大鏡(12C前)一「うゑきは、根をおほしてつくろひおほしたてつればこそ、枝もしげりて、このみをもむすべや」
③ 巣や庵室などを作る。建物をかまえる。
※今鏡(1170)四「ここなる小僧の房をいまだ持たざるに、草庵ひとつむすびて取らせられなんや」
④ しめくくりをつけて終わりとする。結末をつける。「文を結ぶ」
※申楽談儀(1430)序「皆面白しと見て、帯を解ける斗を似せて、むすび納むることを知らず」
⑤ (文法係り結びで) 上にある係助詞に呼応させた語形で文を終わらせる。→係り結び
⑥ もとに返す意を婉曲にいう。
※雑俳・軽口頓作(1709)「きがついた・此お盃それへ戻アノむすびませうかな」
⑦ 光を一点に集める。また、ぼんやりしていたものが、はっきりと形をなす。形として現われる。
※フィクションについて(1948)〈佐々木基一〉「フィクションの世界がそこで紛(まご)うかたなき純粋な像を結んでいる作品に」
[2] 〘自バ五(四)〙 まとまって形を成す。
(イ) 露、霧や氷などが凝固、凝結する。むすぼおる。
※万葉(8C後)七・一一一三「この小川霧そ結(むすべ)る激(たき)ちゆく走り井の上に言挙げせねども」
(ロ) 実などが実る。
※太政官(1915)〈上司小剣〉三「桜は、疾くに花吹雪を作って、若葉の間に実が結びかけてゐるけれど」

むすび【結・掬】

〘名〙 (動詞「むすぶ(結)」の連用形の名詞化)
① 紐状のものをからみ合わせ、巻き込んでつなぐこと。また、そのような状態にしたもの。
※万葉(8C後)一二・二九七四「紫の帯の結(むすび)も解きも見ずもとなや妹に恋ひ渡りなむ」
② (掬) 両手で水をすくうこと。
※今鏡(1170)六「岩漏る清水いくむすびしつなどよみ給へるぞかし」
③ 飯を両手で握り固めたもの。にぎりめし。
※浄瑠璃・国性爺合戦(1715)三「縛られて手もかなはぬ、ついむすびをしてくれ」
④ 焼き飯をいう、女房詞。〔女中詞(元祿五年)(1692)〕
⑤ 人と人とを関係づけて、親しくさせること。縁を結ぶこと。
※浮世草子・好色二代男(1684)四「大臣幸のむすびあり。目無どちをはじめて、取あたりたるよね様を」
⑥ 口の閉じた様子。
※菊池君(1908)〈石川啄木〉二「眼尻に優しい情が罩(こも)って、口の結びは少しく顔の締りを弛めて居るけれど」
⑦ 弁才船など大型荷船の外艫(そとども)最後部にある左右の知利(ちり)の上部を結合する材で、艫やぐらの高欄の台輪を兼ねるもの。〔和漢船用集(1766)〕
⑧ 文章、物語などの終わり。結末。
※吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉八「全篇の結びを付ける積りである」
⑨ 文法で、係り結びの係助詞と呼応して、文を終わらせる語形をいう。→係り結び
⑩ 数学で、幾つかの集合のいずれかに含まれている元の全体からなる集合の、その幾つかの集合に対する称。カップ。ジョイン。和集合。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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