日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
リカオン(ギリシア神話)
りかおん
Lykaon
ギリシア神話でアルカディアの王。ペラスゴス(ゼウスとニオベの子、あるいは大地から生まれ出たともされる)の子。リカオンと50人にも上るその息子たちは、皆傲慢(ごうまん)で不信心であった。彼らは、貧者に身をやつして地上の人間の善悪を試していたゼウスがやってきたとき、この客人に人肉料理を供した。そのため怒ったゼウスは彼らを雷電で撃ち殺し、逃げるリカオンを狼(おおかみ)(リコス)に変えた。
また別の説では、リカオンはリカイオン山でゼウスの祭祀(さいし)を始めたが、幼児を生贄(いけにえ)にしてその血を祭壇に注ぐため憎まれ、狼に変えられた。以来この地では、ゼウスへの犠牲式のおりにはだれかが狼に変身したが、9年間人肉を断ち続けたならば人間に戻ることができたという。パウサニアスの伝えるこの話は、ヨーロッパの人狼伝説の早い記録例といえよう。
[中務哲郎]