日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
リー(David M. Lee)
りー
David M. Lee
(1931― )
アメリカの実験物理学者。ニューヨーク市郊外の町ライで生まれる。10代のころは気象学に興味をもったが、父親の書棚でみつけた『神秘の宇宙』という本で物理学のおもしろさを知った。1948年にハーバード大学に進学して物理学を専攻し、1952年に卒業。アメリカ陸軍に入隊したが、そこで知り合ったコネティカット大学の大学院生をつうじてヘリウムの「超流動」という研究分野に出会う。1954年にコネティカット大学に入学して修士号、1955年エール大学に進学し1959年に博士号を取得した。1959年コーネル大学に職を得て、低温物理学研究所の立ち上げにかかわり、1968年に教授となる。
1972年にこの研究所で、ヘリウム3という物質を絶対零度(-273.15℃)のぎりぎり近くまで冷却したときに「超流動」という現象が現れることを発見した。ふつうの物質はニュートンの運動法則に従うが、超流動状態の物質は、ミクロの現象についての量子力学の理論に従う。超流動状態のヘリウムをコップに入れると、ヘリウムはコップの壁を伝って外に流れ出すという不思議な現象がおきる。ヘリウム3の超流動を発見した業績で、同じ研究グループにいたR・リチャードソン、発見のときには指導中の大学院生だったD・オシェロフとともに、1996年のノーベル物理学賞を受賞した。
[馬場錬成]