ルイス(Harry Sinclair Lewis)(読み)るいす(英語表記)Harry Sinclair Lewis

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ルイス(Harry Sinclair Lewis)
るいす
Harry Sinclair Lewis
(1885―1951)

アメリカの小説家。2月7日ミネソタ州ソークセンターに生まれ、エール大学在学中、再度イギリス旅行を試み、一時アプトン・シンクレア主宰の社会主義的「共同生活」に加わる。大学卒業後、ニューヨークに出てジャーナリズムの職のかたわら作家生活に入る。イギリス旅行後アメリカ社会を見直す、平凡な会社員を描く最初の長編『わが社のレン氏』(1914)、都会的女性にあこがれる飛行士が主人公の『鷹(たか)の行方(ゆくえ)』(1915)ほか2、3の習作を発表したのち、中西部田舎(いなか)町の退嬰(たいえい)的生活を風刺する話題作『本町(ほんちょう)通り』(1920)で文名を確立した。

 その後、本格的な作家活動に入り、作品には、ビジネス万能時代の寵児(ちょうじ)、俗物的な不動産業者を通して典型的なアメリカ市民を描く『バビット』(1922)、科学の理想に殉じる細菌学者を描く『アロースミス生涯』(1925)、キリスト教会の偽善を暴く『エルマー・ガントリー』(1927)、あこがれのヨーロッパに幻滅する自動車業者夫婦の愛の葛藤(かっとう)を円熟した筆致で描く『ドッズワース』(1929)などがある。1930年、アメリカ人としては初のノーベル文学賞受賞作家となる。その後も精力的に仕事を続け、キャリア・ウーマンを扱う『アン・ビッカーズ』(1933)、ファシズム台頭の危機を訴える『ここでは起こりえない』(1935)、黒人問題の不条理性を指摘する『王家のキングズブラッド』(1947)など、さらに10編を数える長編小説を世に送るが、かつての1920年代の精彩はなかった。しかしルイスは、アメリカが国際的大国にのし上がる時代のアメリカ人の生き方を戯画的に描き、シャーウッドアンダーソンとともに新しいリアリズムを確立した作家といえる。1951年1月10日、ローマ郊外で客死。

[齊藤忠利]

『岩崎良三訳『アロースミスの生涯』(1958・荒地出版社)』『三浦新市・三浦富美子訳『エルマー・ガントリー』全2冊(角川文庫)』『齊藤忠利著『シンクレア・ルイス序論』(1988・旺史社)』『斎藤光編『シンクレア・ルイス』(『20世紀英米文学案内13』・1968・研究社出版)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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