ルノワール(Jean Renoir)(読み)るのわーる(英語表記)Jean Renoir

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ルノワール(Jean Renoir)
るのわーる
Jean Renoir
(1894―1979)

フランスの映画監督。1894年9月15日パリに生まれる。父は印象派の画家オーギュスト・ルノワールである。第一次世界大戦後、前衛芸術家たちと交わり、非商業的な前衛映画をつくったが、彼の本質はリアリズムにあり、早くもゾラ原作の『女優ナナ』(1926)で彼らと決別した。サイレント映画より現実的なトーキーの時代となって、いっそう彼の本領は発揮された。いくつかの佳作ののち、モーパッサン原作の『ピクニック』(1936)で生粋(きっすい)のフランス的リアリズムを完成させ、ゴーリキー原作の『どん底』(1936)ですら、フランス的にみごとに消化した。1930年代後半はフランス映画の黄金期として知られるが、ルノワールはこの時代に画期的な傑作『大いなる幻影』(1937)を発表し、第二次世界大戦中のドイツの捕虜収容所を舞台に、国境を越えた人間愛の精神を高揚した。この映画は知性に裏づけられた詩的リアリズムの成果であった。続く『獣人』(1938)はゾラの映画化で鉄道の脅威を描き、1939年の『ゲームの規則』はブルジョア生活の空虚を鋭く批判した傑作であった。大戦中はアメリカに亡命して数編の映画をつくった。その後インドに渡って『河』(1951)をつくったが、これまた悠々たる大河のような壮大な傑作だった。その後は昔日おもかげはないが、ヌーベル・バーグの青年たちは彼を師と仰ぎ、彼の功績はいまや不朽なものと一般に認められている。1979年2月12日ロサンゼルスで没した。

飯島 正]

資料 監督作品一覧

カトリーヌ Catherine(1924)
水の娘 La Fille de l'eau(1924)
女優ナナ Nana(1926)
チャールストン Sur un air de Charleston(1927)
マッチ売りの少女 La Petite marchande d'allumettes(1928)
のらくら兵 Tire au flanc(1928)
坊やに下剤を On purge bébé(1931)
牝犬 La Chienne(1931)
素晴らしき放浪者 Boudu sauvé des eaux(1932)
ボヴァリィ夫人 Madame Bovary(1933)
トニ Toni(1935)
ピクニック Partie de campagne(1936)
どん底 Les Bas-fonds(1936)
大いなる幻影 La Grande illusion(1937)
ラ・マルセイエーズ La Marseillaise(1938)
獣人 La Bête humaine(1938)
ゲームの規則 La Règle du jeu(1939)
スワンプ・ウォーター Swamp Water(1941)
自由への闘い This Land Is Mine(1943)
南部の人 The Southerner(1945)
小間使の日記 The Diary of a Chambermaid(1946)
浜辺の女 The Woman on the Beach(1947)
河 The River(1951)
黄金の馬車 Le Carrosse d'or(1953)
フレンチ・カンカン French Cancan(1954)
恋多き女 Elena et les hommes(1956)
コルドリエ博士の遺言 Le Testament du Docteur Cordelier(1959)
草の上の昼食 Le Déjeuner sur l'herbe(1959)
捕えられた伍長 Le Caporal épinglé(1961)

『アンドレ・バザン著、奥村昭夫訳『ジャン・ルノワール』(1980・フィルムアート社)』『西本晃二訳『ジャン・ルノワール自伝』(2001・みすず書房)』

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