ルミネセンス(読み)るみねせんす(英語表記)luminescence

翻訳|luminescence

デジタル大辞泉 「ルミネセンス」の意味・読み・例文・類語

ルミネセンス(luminescence)

物質が外部から光・熱・紫外線X線などのエネルギーを吸収して励起され、基底状態に戻るときに、熱を伴わずに発光する現象。また、その光。光の減衰時間が短い蛍光と長い燐光りんこうに分けられる。冷光。ルミネッセンス

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ルミネセンス」の意味・わかりやすい解説

ルミネセンス
るみねせんす
luminescence

物質が吸収したエネルギーの一部または全部を光として放出する発光現象。高温に熱せられた物体からの発光現象である熱放射およびα(アルファ)線や陽子(プロトン)などの荷電粒子が物質中を貫通するときの発光現象であるチェレンコフ放射以外の電気的、化学的、機械的、生物的などのいろいろな原因で発せられる広範な発光現象をさす。熱放射ほど熱くないので冷光とよばれることもある。

[中島篤之助 2016年10月19日]

分類

ルミネセンスは物質へのエネルギーの与え方によって次のように分類される。

(1)エレクトロルミネセンス 電場を加えることにより気体・液体・固体などが発光する現象で、放電に伴う発光などがその例である。

(2)光ルミネセンス 紫外線あるいは可視光線の照射により発光するもので、大多数の蛍光体やリン光体の示す発光現象である。蛍光灯や蛍光塗料などがその例である。

(3)熱ルミネセンス 蛍光体に刺激を与えて励起し、その刺激を絶ってから温度を上げたときに生ずるルミネセンス。放射線の積分線量を求める熱蛍光線量計(TLD)はこの応用である。

(4)化学ルミネセンス 化学反応に伴って生ずるもので、ルミノール液の酸化の際の発光はこの代表的な例である。ホタルの光などの生物発光もこれに属するとされている。

(5)放射線ルミネセンス X線(γ(ガンマ)線)、電子線、α線、中性子線など高エネルギー放射線の照射により生ずるもので、ブラウン管の発光、夜光塗料やγ線検出器として用いられるヨウ化ナトリウムシンチレーション計数管の発光などはこの例である。

 このほか、砂糖などの結晶を磨砕するときの発光現象である摩擦ルミネセンスや、ある種の溶液に超音波などを作用させると発光する音(おと)ルミネセンスなどがある。

[中島篤之助 2016年10月19日]

発光機構

物質への刺激を停止したあとの発光継続時間を減衰時間といい、その短いものを蛍光、長いものをリン光とする区別が一般的であるが、この区別は明確なものではない。厳密には、発光を伴う放射過程で前後の電子状態のスピン多重度が等しい場合が蛍光であり、異なる場合がリン光である。ナトリウムや水銀蒸気にそれの固有吸収に相当する光を照射すると、吸収された光が可逆的に再放出される。このようにスペクトル的に遷移の許された基底状態と励起状態との間に行われる吸収を共鳴吸収、放出を共鳴放射とよぶが、共鳴放射は蛍光のもっとも単純な場合である。

 ベンゼンやアニリンなどのガス状分子でも、蒸気圧が十分低く、分子相互間の衝突が無視できれば共鳴放射が認められ、鋭い線状蛍光を示す。しかし多くの場合、分子では分子内振動や回転のため帯スペクトルとなり、また周囲分子との衝突で連続スペクトルとなる。このため、発光する光子のエネルギーは、励起に用いた光子のエネルギーに比べて等しいか、または小さくなる。この現象をストークスシフトストークスの法則)という。

 液体では高密度と激しい分子運動の存在のために、励起状態の脱活が著しい。そのため、ガス状でルミネセンス発光を示す物質も蛍光を発しなくなる。しかし、その電子状態が周囲からの影響を受けにくいような特別な構造をもった分子(フルオレセインアントラセンウラニル塩、希土類塩など)は蛍光を示す。またこれらの物質をガラス、高分子中に分散あるいは吸着させたものも蛍光を示す。

 固体に外部から加えられた刺激は、多くの場合は固体内原子の熱運動に転化して光を発することはない。そのためルミネセンスを発生するには、いわゆる「活性中心」を多数含んだ結晶体であることが必要である。結晶発光体はルミネセンス物質としてもっとも重要であり、純度が高くなるほど蛍光の強くなる純粋蛍光体と、賦活(ふかつ)蛍光体に大別される。前者では空格子点などの点状欠陥が、後者では不純物置換原子などが活性中心となる。こういう活性中心が存在すると、注入されたエネルギーで電子がある準位に励起される。励起された状態では原子間隔や格子がエネルギーを最小にするように変化し、すなわち緩和励起状態に移行したのち発光する。発光を伴わず格子振動にエネルギーを与える遷移を無放射遷移という。ルミネセンスは自然放出の発光現象であるが、発光体を共鳴装置内に置いて十分な刺激を与えれば誘導放出をおこさせ、レーザー発振させることができる。

[中島篤之助 2016年10月19日]

賦活蛍光体の例

実用上重要な賦活蛍光体の代表的なものを以下に示す。

(1)ブラウン管用やEL用の硫化物、セレン化物系化合物で、銀賦活・硫化亜鉛ZnS:Ag、銅賦活・セレン化カルシウムCaSe:Cuなど。

(2)周期表上のⅢ―Ⅴ族化合物でpn接合半導体素子を形成させ、発光ダイオードとして利用するもの、および半導体レーザーとして光通信などに利用するもの。ヒ化ガリウムGaAs、リン化ガリウムGaPなど。

(3)カラーテレビ用の赤色蛍光体として重要な希土類化合物。ユウロピウム賦活・イットリウムオキシサルファイドYO2S:Euなど。

(4)γ線測定用シンチレーターとして用いられるタリウム賦活・ヨウ化ナトリウムNaI:Tlなどのアルカリハライド蛍光体。

(5)蛍光灯用としての各種の酸素酸蛍光体。マンガン賦活・オルトケイ酸亜鉛Zn2SiO4:Mn、セリウム賦活・リン酸カルシウムCa3(PO42:Ce、マンガン賦活・酸化マグネシウム・五酸化二ヒ素6MgO-As2O5:Mnなど。

(6)ダイヤモンド、鋼玉、蛍石(ほたるいし)、燐灰(りんかい)石などの天然鉱物。

[中島篤之助 2016年10月19日]

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改訂新版 世界大百科事典 「ルミネセンス」の意味・わかりやすい解説

ルミネセンス
luminescence

物質が吸収したエネルギーの一部または全部を光として放出する現象。高熱を伴わないことから冷光とも呼ばれる。発光スペクトルが物質のエネルギー準位とは無関係に発光体の温度のみにより定まりプランクの放射則によって記述される場合を除き,選択的に物質のエネルギー準位の一つ,あるいはいくつかを励起した場合の発光現象をいう。主として,可視や近紫外域に発光スペクトルのある場合を指すが,これらの発光は,励起された物質の電子が基底状態に戻るとき,そのエネルギーの差を光(電磁波)として放出するもので,すなわち電子準位間の遷移によって起こる。

ルミネセンスはエネルギーを与える刺激によって以下のように分類される。(1)光ルミネセンス 光の励起によって発光するルミネセンスで,フォトルミネセンスとも呼ばれ,蛍光灯や蛍光塗料など多方面に用いられている。(2)熱ルミネセンス 蛍光体に刺激を与えて励起し,その刺激を断ってから温度をあげたときに生ずるルミネセンス。(3)化学ルミネセンス 化学反応に伴って生ずるルミネセンスで,ルミノール液の酸化の際の発光はこの代表的なものとして知られている。ホタルなど生物の発光も化学ルミネセンスの一種とされている。(4)放射線ルミネセンス X線,α線,中性子線などの放射線を照射したときに生ずるルミネセンス。ブラウン管の発光はZnSの陰極線(電子線)励起によるルミネセンスであり,夜光塗料はZnSのα線励起のルミネセンスである。γ線やX線は電磁波の一種であるが,NaIやアントラセンの蛍光はγ線のシンチレーターとして用いられる。(5)エレクトロルミネセンス 電場を加えた場合に生ずるルミネセンスをいう。(6)その他 このほか,結晶を摩擦したり破壊するとき(摩擦ルミネセンス),あるいは超音波を液体に当てたとき(音ルミネセンス)にもルミネセンスを生ずる。
エレクトロルミネセンス →生物発光

励起を停止した後,しばらく発光の継続する時間を減衰時間という。減衰時間の短い発光を蛍光,長い発光をリン光というが,この区別は明確ではない。希薄な気体などの場合,減衰時間は遷移確率によって決まり,光スペクトルの自然幅の原因ともなる。電気双極子遷移が許容されている場合の減衰時間はもっとも短く,10⁻9秒の程度である。磁気双極子遷移や電気四重極遷移では,それぞれ10⁻6秒,10⁻4秒の程度である。固体では,パリティやスピンなどの選択則で禁止されている電気双極子遷移でも10⁻6~10⁻3秒程度の減衰時間で発光し,パリティの選択則を破る原因が格子振動の場合には,遷移確率が温度依存性を示す。一方,熱ルミネセンスでは,励起された電子が固体中不純物の浅いエネルギー準位に捕獲され,熱によって束縛が解かれたときに初めて発光する。この場合,発光の減衰時間は遷移確率と無関係である。

 ルミネセンスによる発光では,発光が励起された準位から直接に起こる場合と,より低いエネルギーの準位へ発光を伴わずに遷移してから起こる場合とがある。発光を伴わない遷移を無放射遷移というが,気体の場合の無放射遷移は主として分子どうしの衝突によって起こり,固体の場合は格子振動にエネルギーを与えることによって起こる。発光によって,直接に励起される前の基底状態へもどる場合のほか,中間状態を経てもどる場合もある。エネルギー保存則から一般に,発光する光子のエネルギーは励起に用いた粒子のエネルギーに比べて等しいかまたは小さい。すなわち,光ルミネセンスの場合,発光の波長は励起に用いた光の波長と同じかまたは長くなる。この現象をストークスシフト(ストークスの法則)という。

 単原子分子の場合には,励起された電子準位はそのままの状態で発光するが,複数の原子から構成されている分子の気体や固体の場合は,励起された状態で原子間隔や格子がエネルギーを最小とするように変化し,緩和励起状態に移行して後に発光する。これは発光の遷移確率に比べて,格子の緩和に要する時間が短いことによる。緩和励起状態では,電子が振動準位の温度で決まる範囲へ分布して発光するが,軽い分子では多数の振動準位が分離されており,固体の場合にはそれらが連続である。発光スペクトルの幅は,気体の場合,ドップラー幅と分子どうしの衝突による圧力に依存した幅とよりなり,ほぼ0.1nm程度で,スペクトルは細い輝線よりなる。固体の場合は格子振動との相互作用がスペクトル幅を決定している。相互作用の弱い共有結合の結晶などの場合には幅が比較的細く,格子振動の状態密度の高い部分が発光スペクトルに付随するのが観測される。液体の場合も同様な帯状スペクトルを示す。イオン結晶など格子振動との相互作用の強い場合は,通常は100nm程度にわたる幅の広い連続スペクトルである。

 励起粒子1個当りの発光光子の数を量子効率という。低温の固体では量子効率が1となることがある。発光は無放射遷移と競争過程にあり,一般には温度が上昇すると無放射遷移が増加し,ルミネセンスの量子効率が減少する。このため,温度上昇に伴い発光の減衰時間は発光の遷移確率で決まる時間より短くなる。

 ルミネセンスは自然放出の発光であるが,発光体を共鳴器中に置き十分な励起を行えば,誘導放出を起こさせ,さらにレーザーとして発振させることができる。また,ラマン散乱の散乱光は,入射光に対して一定の偏光や位相の関係をもつことがルミネセンスの発光とは異なるが,ラマン散乱の入射光光子のエネルギーが物質の準位間のエネルギー差と一致する共鳴ラマン散乱では光励起のルミネセンスと区別がなくなる。
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百科事典マイペディア 「ルミネセンス」の意味・わかりやすい解説

ルミネセンス

一般に物質を加熱すると電磁波を放出し,その電磁波のエネルギーやスペクトル分布は物質の種類と温度だけできまる(熱放射)。しかし種々の刺激により熱放射と異なる光を発することがあり,この現象をルミネセンス,また高熱を伴わないため冷光ともいう。刺激原因から次のように分けられる。1.光ルミネセンス。蛍光やリン光。2.熱ルミネセンス。ホタル石,ルビー,サファイア等を加熱,またはゼラチン,パラフィン,ゴム等を液体空気(−180℃)で冷やしたとき。3.摩擦ルミネセンス。氷砂糖を砕くとき,水晶をこすり合わせるときなど。4.音ルミネセンス。水,グリセリン,ニトロベンゼン等に超音波を通したとき。5.放射線ルミネセンス。X線,α線,β線,γ線等を当てたとき(蛍光板)。6.エレクトロルミネセンス。電場を加えたとき。7.化学ルミネセンス。たとえばアルカリ性のルミノール溶液を過酸化水素,過マンガン酸カリウム等で酸化したとき。8.生物発光。これは結局7.に含まれる。
→関連項目陰極線化学ルミネセンスストークスの法則放電灯

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化学辞典 第2版 「ルミネセンス」の解説

ルミネセンス
ルミネセンス
luminescence

物質の発光現象のなかで,温度放射(高温にある物体からの放射発光),チェレンコフ放射(荷電粒子が物質中の光の速度より高速度で物質中を通過する際の発光)以外の発光現象.すなわち,外部からの各種のエネルギーを吸収して励起された後に基底状態に戻るときの発光をいう.励起エネルギーの与え方によって,ホトルミネセンス陰極線ルミネセンスX線ルミネセンスエレクトロルミネセンス,放射線ルミネセンス,摩擦ルミネセンス熱ルミネセンス化学ルミネセンスなどの種類に分けられる.[別用語参照]蛍光りん光

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ルミネセンス」の意味・わかりやすい解説

ルミネセンス
luminescence

物質が光,X線,放射線などの刺激を受けて,そのエネルギーを吸収し,それを光として放出する現象のなかで,熱放射チェレンコフ放射レイリー散乱,ラマン散乱 (→ラマン効果 ) などの特殊なものを除いた発光現象をさす。初めに与えられる刺激の種類により光ルミネセンス,X線ルミネセンス,化学ルミネセンス,摩擦ルミネセンス陰極線ルミネセンス,エレクトロルミネセンスなどの呼び名がある。ケイ光やリン光がルミネセンスの主要な現象であるので,冷光ということもある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

栄養・生化学辞典 「ルミネセンス」の解説

ルミネセンス

 冷光ともいう.物質が高温になることなく発光する現象で,ホトルミネセンス,陰極ルミネセンス,X線ルミネセンス,化学ルミネセンスその他がある.蛍光,リン光に分類することがある.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

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