レオン(Fray Luis de León)(読み)れおん(英語表記)Fray Luis de León

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

レオン(Fray Luis de León)
れおん
Fray Luis de León
(1527―1591)

スペインの詩人、人文学者。伝統的中世スコラシズムと人間中心のルネサンス思想の対決時代に、両者を調和的に統合しようとしたアウグスチヌス会士、サラマンカ大学教授。該博なヘブライ語学と厳密な科学性を駆使した『雅歌』の翻訳では、そこに含まれる肉感的、情愛的側面に光をあてるなど、ルネサンス人特有の姿勢もうかがえ、ために異端嫌疑をかけられて5年ほどバリャドリードの獄中にあった。同時代の聖テレサSanta Teresa de Ávila(1515―1582)と同じく、彼にもユダヤ人の血が流れており、これが彼の思想形成、創作に微妙な影を落としている。散文作品には、キリスト教的理想の女性像をのびやかな筆致で描いた『完全な妻』(1583)や、深遠な思想性と磨き抜かれた清澄文体がみごとに調和した『キリストの御名(みな)について』(1583)などがある。しかし彼の名がひときわ大きく輝くのは詩の領域で、ホラティウスやウェルギリウスらの翻訳を除けば創作詩は約30編とわずかだが、甘美さと清澄な輝きを具備したそれらの詩は、イタリア詩やギリシアラテン古典、さらにスペイン神秘主義精華が渾然(こんぜん)一体となった比類なき詩的世界を構築している。

[佐々木孝 2015年11月17日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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