レーザー加工(読み)レーザーカコウ(英語表記)laser beam machining

デジタル大辞泉 「レーザー加工」の意味・読み・例文・類語

レーザー‐かこう【レーザー加工】

laser processing炭酸ガスアルゴンガスなどの強力レーザー光を用いた加工。レーザー光を細く絞って被加工物の穿孔せんこう切断溶接などの加工を熱的に行う場合と、レーザー光の光化学反応を利用して被加工物のエッチング堆積たいせきを行う場合がある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「レーザー加工」の意味・わかりやすい解説

レーザー加工
れーざーかこう
laser beam machining

レーザーのもつ集束された光エネルギーを利用して、物質を加工すること。産業用に広く利用されているレーザーは、炭酸ガスレーザーイットリウムアルミニウムガーネットYAG)レーザーである。これらを用いた加工機は、ロボット技術と組み合わされてファクトリーオートメーション(FA)の主要素となっている。

 炭酸ガスレーザーは、波長10.6マイクロメートルの遠赤外域で40キロワット級の大出力が得られ、発振効率は15~20%と高く、セラミックス、ガラス、プラスチックなどへの吸収が優れているので、切断、溶接、穴あけ、表面改質に用いられる。加工精度はよく、金型を使用せずに複雑な形状でも切断できるので、板金加工メーカーで多く用いられる。

 YAGレーザーは、波長1.06マイクロメートルの赤外域で3キロワット級のものまである。金属に対する吸収はよく、材料に対する選択性がよいので、トリミング(薄膜抵抗の一部除去)、スクライビング(ICチップの溝切り分離)、マスクリペアリング(露光用マスクの欠陥修正)、マーキングなど、半導体関連の電子部品加工に広く利用される。また、光ファイバーが使用できるので、狭い箇所や離れた箇所でも使用できる便利さがある。

 そのほか、医療用メスには炭酸ガスレーザーとYAGレーザーが、眼科では網膜剥離(はくり)の癒着に可視域のルビーレーザーアルゴンレーザーが用いられる。レーザーメスは止血性がよく、硬い組織でも非接触で気化消滅でき、顕微鏡下でも利用できるという利点がある。また、超微細加工用に開発された紫外域のエキシマレーザーは、ギガビット級の半導体メモリーの生産を可能にし、角膜スライス用の眼科メスとしても注目されている。

[岩田倫典]

『大橋裕一編『エキシマレーザー』(1997・メジカルビュー社)』『栖原敏明著『半導体レーザの基礎』(1998・共立出版)』『金岡優著『レーザ加工』(1999・日刊工業新聞社)』『小原実、神成文彦、佐藤俊一著『レーザ応光学』(1999・共立出版)』『中井貞雄編著『パワーレーザーの技術』(1999・オーム社)』『C・H・タウンズ著、霜田光一訳『レーザーはこうして生まれた』(1999・岩波書店)』『谷腰欣司著『「図解」レーザーのはなし』(2000・日本実業出版社)』『軽部規夫著『21世紀の光』(2001・文芸社)』『岡田正・小林哲郎・伊藤正著『新しい光の科学』(2001・大阪大学出版会)』

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改訂新版 世界大百科事典 「レーザー加工」の意味・わかりやすい解説

レーザー加工 (レーザーかこう)
laser beam machining

レーザー光を集束して得られる高エネルギー密度を利用し,各種材料を融解・気化して切断,穴あけ,溶接などを行う加工法。微小面積をきわめて短時間で加熱しうるため,金属表面の熱処理にも利用される。1970年代に入ってから実用化された新しい加工法である。エネルギー密度が高く,非接触加工が行えるなど,電子ビーム加工と類似しているためにその用途も似ているが,真空を必要とせず空気中での加工が可能であり,X線に対する防護が不要であるなどの利点を有する。また光であるため,レンズや鏡を利用して容易にビームの操作を行うことが可能である。気体レーザーと固体レーザーの両方が加工に利用されるが,前者は主として切断,溶接,熱処理などに,後者は穴あけ加工に用いられる。穴あけや切断では材料の蒸発現象を利用しているため,エネルギー密度とレーザーの照射時間を適切に設定し,加工部分だけを蒸発させて他の部分が熱伝導によって溶融しないようにすることが重要である。図に装置の概要を示す。加工用気体レーザーとしては炭酸ガスレーザーが代表的である。これはエネルギー効率が高く,大出力化が可能なためで,超強力合金や耐火合金の切断も可能となっている。炭酸ガスレーザーの波長は10.6μmと固体レーザーに比べて10倍以上も長いため,レーザーを照射した表面での反射によるエネルギー損失が大きい。これを防ぐために,加工部に酸素などの気体を吹きつけ,金属の酸化による反射率の減少を図ると同時に,酸化熱を利用して加工能率を高めることが行われる。炭酸ガスレーザーの発生装置は,レーザー物質を励起させるための放電方向,ガス流方向およびレーザー発振軸方向の組合せにより同軸型,2軸直交型,3軸直交型に分類される。同軸型は構造が簡単で安定したビームが得られるという特徴を有するが,大出力の装置には適さない。他の二つは大出力用に適しており,とくに3軸直交型は小型化が可能であるという利点をもつ。固体レーザーとしては,大出力が得られるYAG(Y3Al5O12)レーザーがもっとも多く利用されている。波長が短く(1.06μm),集光性がよいために精密加工に適しているが,エネルギー効率は低い。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「レーザー加工」の意味・わかりやすい解説

レーザー加工
レーザーかこう
laser beam machining

レーザー光線のもつ直進性,高密度パワー,集光性を利用して,生産加工の手段に用いること。被加工物の硬度に無関係に加工できるため,金属をはじめプラスチック,ガラス,木材,紙などの多様な材料を対象とし,切断・穴開け・溶接・焼入れなど広範囲な用途に用いられる。従来むずかしかった不定形の切断も簡単にできるようになった。特に服地の裁断ではやわらかい材料を正確にかつ大量に切断できるため威力を発揮している。また医療ではレーザーメスが手術時の出血を減らす方法として普及している。イットリウムアルミニウムガーネット (YAG) やガラスレーザーなどの固体レーザー,炭酸ガスやアルゴンを用いた気体レーザーがある。

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百科事典マイペディア 「レーザー加工」の意味・わかりやすい解説

レーザー加工【レーザーかこう】

レーザー光によって各種材料を融解・気化して切断・穴あけ,溶接などを行う加工法。集束して得られる高エネルギー密度を利用する。微小面積をきわめて短時間で加熱できるため,金属表面の熱処理にも利用される。

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世界大百科事典(旧版)内のレーザー加工の言及

【レーザー】より

ビデオディスクディジタルオーディオ(ディスク)にもレーザーが利用され,無接触で画像,音響を再生でき,商用価値が高いので盛んに開発が進められている。
[光エネルギーとしての応用]
 レーザーの光エネルギーとしての応用として最初に工業にとり入れられ成果を出したのはレーザー加工である。レーザーのエネルギーを集中して穴あけ,切断,溶接,表面処理などがあげられる。…

※「レーザー加工」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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