ロス(Philip Roth)(読み)ろす(英語表記)Philip Roth

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ロス(Philip Roth)
ろす
Philip Roth
(1933―2018)

アメリカユダヤ作家。ニュー・ジャージー州ニューアーク市にユダヤ系両親の下に生まれる。1954年バックネル大学卒業、1955年シカゴ大学の修士号取得。同大学で英語講師のかたわら雑誌に発表した短編小説を集めて出版した処女作品集『さようならコロンバス』(1959)が全米図書賞に選ばれ、文壇寵児(ちょうじ)となり、続いて大作を発表する。ユダヤの男と非ユダヤの女の結婚生活の軋轢(あつれき)と崩壊、大学キャンパス内の教師たちの生活などを通して現代の生活、風俗を重層的に描いた最初の長編小説『自由を求めて』(1962)、夫を破滅させ自分も破滅する『ルーシィの哀(かな)しみ』(1967)、情愛深く口やかましい典型的なユダヤ的母親の影響から自立できない男の悲喜劇『ポートノイの不満』(1969)、ニクソン大統領を風刺した『われらのギャング』(1971)、1個の乳房に変身した男の話『乳房になった男』(1972)、野球を題材にアメリカの社会と文化を徹底的に風刺した『素晴らしいアメリカ野球』(1973)、自立した一個の男として女を愛することのできない男の悲劇を描く自伝的色彩の濃い『男としての我が人生』(1974)、そして『欲望学教授』(1977)と続いた。その後、作家修業時代を描いた『ゴースト・ライター』(1979)、花形作家時代の『解き放たれたザッカーマン』(1981)、中年期の『解剖学講義』(1983)という三部作を完成させた。この三部作は、1985年エピローグを追加して『縛られたザッカーマン』としてまとめられた。1980年代から1990年代にかけても、創作活動は活発である。『背信の日々』(1986)、『いつわり』(1990)、ノンフィクション父の遺産』(1991。全米図書賞受賞)などがある。さらに、『シャイロック作戦』(1993)、『安息日劇場』(1995)、『アメリカ的牧歌』(1997)、『私は共産主義者と結婚した』(1998)も注目される。心理的洞察の深さ、風刺精神のしたたかさ、文体の芸術性で現代を代表する作家。

[大津栄一郎]

『青山南訳『われらのギャング』(1977・集英社)』『大津栄一郎訳『男としての我が人生』(1978・集英社)』『青山南訳『素晴らしいアメリカ作家』(1980・集英社)』『佐伯泰樹訳『欲望学教授』(1983・集英社)』『青山南訳『ゴースト・ライター』(1984・集英社)』『佐伯泰樹訳『解き放たれたザッカーマン』(1984・集英社)』『宮本陽吉訳『解剖学講義』(1986・集英社)』『宮本陽吉訳『背信の日々』(1993・集英社)』『宮本陽一郎訳『いつわり』(1993・集英社)』『柴田元幸訳『父の遺産』(1993・集英社)』『佐伯彰一訳『さようならコロンバス』』『斎藤忠行・平野信行訳『ルーシィの哀しみ』』『宮本陽吉訳『ポートノイの不満』』『大津栄一郎ほか訳『乳房になった男』』『中野好夫・常盤新平訳『素晴らしいアメリカ野球』(集英社文庫)』『岩元巌著『現代アメリカ作家の世界』(1988・リーベル出版)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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