ワシントンヤシ(読み)わしんとんやし(英語表記)washington palm

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ワシントンヤシ」の意味・わかりやすい解説

ワシントンヤシ
わしんとんやし
washington palm
[学] Washingtonia

ヤシ科(APG分類:ヤシ科)コウリハ亜科ワシントンヤシ属の総称。北アメリカ、メキシコに2種分布する。本属の分類については雑多な説があり、多種の同種異名があったが、ベーレーL. H. Baileyは本属を、オキナワシントンヤシcalifornia washington palm/W. filifera Wendl.と、ワシントンヤシモドキmexican washington palmの2種に限定した。幹は単一で直立し、高さ15~27メートル、円柱状であるが、葉柄着生部以下が急に肥大し、下部径は0.8~1メートル、上部径は0.3~0.8メートル。葉柄基部の葉鞘(ようしょう)は大きく分裂し、枯葉は長期間残り蓑(みの)状に垂れる。古葉を切断すると赤褐色の葉柄基部が竹籠(かご)状に交錯する。葉は暗緑色または鮮緑色、深裂掌状葉で長さ1~2メートル。裂片はΛ(ラムダ)状(内向鑷合(じょうごう)状)で、縁辺に長い毛状繊維が垂れる。葉柄は1~2メートルで両縁に鉤(かぎ)状の強刺がある。本属は幹高が6~7メートルになるまでは開花しない。肉穂花序は長さ3~4メートル。包葉は細長い管状で弓弧状に湾曲し、鞭(むち)状の花柄が垂れ、花柄は長さ20センチメートルで、1、2回分岐する。花は両性花であるが、雄花雑居もある。悪臭を放ち、長さ8~10ミリメートル、花弁は先のとがった舌状で長さ7ミリメートル、幅4ミリメートル。雄しべは6本、葯(やく)は盾状で長さ5ミリメートル、花糸は雌しべの5倍、雌しべは高さ2ミリメートル、柱頭は小さい。萼(がく)は深いコップ状。果実は黒色または黒褐色、先のとがった卵形で長さ10ミリメートル、幅8ミリメートル、片面平坦(へいたん)で別の面は球面。果肉は甘い。種子コウリバヤシに似ており、褐色で平滑、長さ7ミリメートル、幅5ミリメートル。片面は凹面で別の片面は凸面。2、3個の種子が固まってつくこともある。胚(はい)は凸面側の斜め下にある。

 オキナワシントンヤシは北アメリカ、コロラド砂漠峡谷アリゾナ、ニュー・メキシコ原産。高さ15メートル、径1メートル。葉は光沢のある灰緑色、裂片は50~70枚、葉の径は2メートル。ワシントンヤシモドキとの相違点は、葉の枢着部である葉柄尖頭(せんとう)部の裏面中軸になり、8~15センチメートル全葉の内部に深く食い込み、末端が葉脈化し、尖頭部には長い繊維がある。葉柄の上半部が多肉的で、横断面は半円形で背面が盛り上がり、下部になると扁平(へんぺい)化している。

 ワシントンヤシモドキは北アメリカ西部、メキシコ西岸北部原産。高さ22~27メートルで、まれに35メートルのものもある。葉は光沢のある鮮緑色。葉の葉柄枢着部から小葉上端部までの葉柄の長さ1メートル、葉柄の枢着部は三角形でそれ以上葉中に食い込まない。葉柄の横断面が三角形など、オキナワシントンヤシと顕著な対照を示す。多湿地でも生育し、栽培温度は零下5℃以上。日本国内のワシントンヤシはほとんどがワシントンヤシモドキである。

[佐竹利彦 2019年5月21日]

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改訂新版 世界大百科事典 「ワシントンヤシ」の意味・わかりやすい解説

ワシントンヤシ
Washington palm
Washingtonia

通常栽培するヤシ科の高木で,葉は枯れてもすぐに落下せず,幹に垂れ下がり,次々に何枚も重なり,ペチコートのように見えるので,ペチコートヤシともよばれている。雌雄同株。葉は円形または扇形で径1~1.5m,掌状に中裂し,裂片はふちに多数の白色の糸を垂れる。肉穂花序は葉より長く,下垂し,多数の小花をつける。果実はエンドウ豆大の核果で黒熟する。属の学名Washingtoniaはアメリカ合衆国の初代大統領ワシントンを記念してつけられた。この属には2種があり,そのうちもっとも普通に見られるオニジュロ(別名オキナヤシ)W.filifera(Lind.ex Andre)H.Wendl.は北アメリカのカリフォルニア南部,アリゾナ西部の産で,幹は高さ15m,直径30cmぐらいで基部はややふくれる。他の1種シラガヤシ(別名オキナヤシモドキ)W.robusta H.Wendl.はオニジュロに比べ幹は太く,基部はふくれず,高さ27m,直径50cmぐらいとなる。カリフォルニア南部からメキシコ北部が原産で日本ではまれに栽培されている。

 耐寒性があり並木,庭木とする。またインディアンは,葉を籠や建築資材に,若芽や果実を食用にした。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ワシントンヤシ」の意味・わかりやすい解説

ワシントンヤシ
Washingtonia filifera; Washington palm

ヤシ科の高木。アメリカのカリフォルニア州,アリゾナ州に自生する。オキナヤシとも呼ばれ,街路樹として温帯,亜熱帯に広く栽植される。日本でも同属のオキナヤシモドキ W. robustaとともに,特に暖地でよく栽培されている。幹は円柱状で高さ 15~25mにも達し,表面は葉柄の基部や枯れた古い葉でおおわれている。葉の径は1~1.5mになり,掌状に深く裂ける。裂片は内側に合し,葉柄は長くとげがある。花は下垂する肉穂花序につき,白色の両性花で悪臭を放つ。果実は黒褐色で,果肉は軟らかく甘い。種子は扁平な球形。葉の繊維で帽子をつくる。

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百科事典マイペディア 「ワシントンヤシ」の意味・わかりやすい解説

ワシントンヤシ

北米原産のヤシ。耐寒性があり,日本でも暖地では街路樹,庭木として植えられる。高さは約20m。葉はシュロに似た掌状葉で大きく,帯黄緑色で,裂片の縁から繊維が下がる。縁沿いにとげのある葉柄は,枯葉になっても落ちずたれ下がり幹をおおう。オキナヤシともいう。

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