日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ワールブルク(Otto Heinrich Warburg)
わーるぶるく
Otto Heinrich Warburg
(1883―1970)
ドイツの生化学者。20世紀前半における生化学のパイオニアの一人。フライブルクで物理学者の子として生まれる。ベルリン大学でフィッシャーに師事し、のちハイデルベルク大学に学んだ。1931年以降、死亡するまで、ベルリン・ダーレムに新設されたカイザー・ウィルヘルム(1953年以後はマックス・プランク)細胞生理学研究所長として研究を続けた。ワールブルク検圧計という、細胞や組織のガス交換を精密に測定する計器を考案し、この器械はその後多くの研究室で広範に使用された。彼の研究業績を大別すると、細胞呼吸、光合成、癌(がん)になる。まず細胞呼吸のメカニズムに関する研究は、彼の研究のなかでもっとも重要なものであり、呼吸に対する低濃度の青酸や一酸化炭素の強い阻害作用の知見から、鉄・ポルフィリンをもった酸化酵素(ワールブルク呼吸酵素とよばれた)の発見など、その後の細胞呼吸の研究の端緒をつくった。この研究で1931年ノーベル医学生理学賞を受けた。また金属を含まないフラビン酵素(黄色酵素)、糖代謝におけるペントースリン酸回路(ワールブルク‐ディケンス回路)、六炭糖リン酸脱水素酵素、NADP(TPN、助酵素Ⅱ)などを発見した。光合成に関しては、光量子(光子)収量を最初に測定した。癌については、癌細胞の代謝に関する先駆的な研究を行った。
[宇佐美正一郎]