下・降・行・件・条(読み)くだり

精選版 日本国語大辞典 「下・降・行・件・条」の意味・読み・例文・類語

くだり【下・降・行・件・条】

[1] 〘名〙 (動詞「くだる(下)」の連用形の名詞化)
[一] (下・降)
① 高い所から低い所へ移動すること。また、流れのかみからしもへ行くこと。
書紀(720)斉明四年・歌謡水門(みなと)の 潮(うしほ)の矩娜利(クダリ) 海下(うなくだ)り 後もくれに 置きて か行かむ」
浄瑠璃・本朝三国志(1719)四「片足踏みはづし、はしごをくだりにころころころ」
② (約二時間を単位とする昔の時の呼び方において) 時が移り過ぎて、ある刻限が終わりに近づくこと。また、その時。
※高倉院厳島御幸記(1180)「申のくだりに、福原に着かせ給」
③ 都から地方へ行くこと。
源氏(1001‐14頃)賢木「斎宮の御くだりちかう成ゆくままに」
※栄花(1028‐92頃)鶴の林「殿ばら、受領のくだり、僧達などにもわかたせ給ひて」
④ (内裏都城の北にあったところから) 京都の内で、南へ行くこと。
今昔(1120頃か)一二「東の大宮を下りに遣せて行くに」
※太平記(14C後)一七「真如堂を西へ打過て、河原を下りに押寄る」
⑤ 町のはずれの方。また、遠く隔たった土地。土地の名の下につけて用いる。くんだり。
※浄瑠璃・心中天網島(1720)上「桜橋から中町くだりぞめいたら」
⑥ 程度が低くなること。劣ること。
※新撰六帖(1244頃)六「谷さまにはへる峰への玉かつらただくだりにもなる我身かな〈藤原為家〉」
⑦ 進むにつれてだんだん下がってゆく道。くだりざか。
※湯ケ原ゆき(1907)〈国木田独歩〉七「上(のぼり)には人が押し下(クダリ)には車が走り」
⑧ 鉄道の路線で、各線区ごとに定められた起点から終点への方向。現在では、都市(特に東京)ないしはそれに近い所を起点としていう。また、下り電車(列車)を略していう。
窮死(1907)〈国木田独歩〉「疲労(くたび)れて上り下(クダ)り両線路の間に蹲(しゃが)んだ」
ヒバリの鳴き声の高い方から低い方へ移り行く部分。
※東京風俗志(1899‐1902)〈平出鏗二郎〉下「雲雀もまた行はれて、上り・中天・下(クダ)りの三声の美にして」
⑩ (③から転じて) 江戸時代、特に江戸で上方(かみがた)産物をいう。「下り酒」「下り杯」「下り雪駄」など品物の名の上に付けていう場合も多い。
咄本・無事志有意(1798)十軒店「『もふ十軒店に下(クダリ)めらが出ているだろふ〈略〉』と大勢づれで雛店へ行(ゆき)
⑪ 「くだりあめ(下飴)」の略。
※御湯殿上日記‐天文二三年(1554)正月一〇日「りしやう院より御くたり一おりまいる」
※物類称呼(1775)四「又地黄煎とも書 江戸にては 下りともいふ」
巡業などで、上方から江戸に来ている人。
※評判記・難野郎古たたみ(1666頃)玉井浅之丞「いかにしてもしとやかなるなりふり〈略〉くだりのうちにはさだめて京そだちならばついぢのうちの御ながれかと」
下痢(げり)。くだりはら。
※咄本・軽口露がはなし(1691)三「翼日(よくじつ)はらもなをりければ、女房いふは、『今朝のくだりは何と有ぞ』」
⑭ 南風。
風俗画報‐一五二号(1897)人事門「何月は山背(やませ)(東風)なれど何月はクダリ(南風)なり」
[二] (行・件・条)
① 上から下へのならび。特に、着物の縦のすじ。
※万葉(8C後)一四・三四五三「風の音(と)の遠き吾妹(わぎも)が着せし衣(きぬ)たもとの久太利(クダリ)まよひ来にけり」
※仮名草子・恨の介(1609‐17頃)上「御上前(うへまへ)のくだりには、恋を駿河の富士の嶺を、浮雲が帯となり」
② 文章で述べられている一部分。章。条。段。
※書紀(720)推古一二年四月(岩崎本訓)「故に初の章(クタリ)に云へらく」
※当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉二〇「僅に説洩せし条(クダリ)を拾ひて」
③ 前文にあげた事柄。前に述べた箇所。前の箇条。くだん。
※大和(947‐957頃)一六八「この大徳たづねいでてありつるよしを、上(かむ)のくだり啓(けい)せさせけり」
[2] 〘接尾〙 文章の行(ぎょう)を数えるのに用いる。
※源氏(1001‐14頃)梅枝「ただ三くだりばかりに、文字ずくなにこのましくぞ書き給へる」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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