下垂体前葉ホルモン単独欠損症

内科学 第10版 の解説

下垂体前葉ホルモン単独欠損症(視床下部・下垂体)

概念
 単一の下垂体前葉ホルモン分泌が障害された病態をいう.まれではあるがゴナドトロピン単独欠損症が比較的多くみられる.下垂体障害と視床下部障害により生じる.家族性の発症を認めることがある.
診断
 下垂体前葉ホルモンの中で,該当するホルモン以外の下垂体ホルモン分泌が障害されていないことを示す必要がある.思春期加齢に伴う生理的変化を考慮する必要がある.
1)ゴナドトロピン単独欠損症:
LHFSHの分泌がいずれも障害された状態であるが,LHのみまたはFSHのみが障害されることがある.女性よりも男性に多い.
 嗅覚障害(無または低嗅症)を伴う場合,Kallmann症候群とよばれる.KAL1遺伝子,FGFR1遺伝子,PROPR2遺伝子の異常が認められることがある.ゴナドトロピン単独欠損症でGnRH受容体およびGnRH自身の遺伝子異常も報告されている.Prader-Willi症候群(肥満,糖代謝異常,知能障害,筋緊張低下など)やBardet-Biedle症候群(網膜色素変性,肥満,多指症,知能障害など)の先天異常を伴う例がある. 臨床的には二次性徴の障害と類宦官様体型を示す.高身長,指極長の延長,骨端線閉鎖遅延などが認められる.血中性ステロイドホルモンの低下とLH,FSHの低下を認める.GnRH負荷に対してゴナドトロピンは低ないし無反応を示す.視床下部障害では遅延増加反応を示したり,GnRH連続負荷に対する増加反応を認める.
2)ACTH単独欠損症:
好発年齢は中年以後である.低血糖,低血圧,低ナトリウム血症,感染や手術などストレス時のショック状態などで見いだされる.易疲労性,食欲不振を示す.原因として自己免疫機序が考えられており,大部分は下垂体障害である.先天性の場合,下垂体特異的転写因子であるTPIT遺伝子の異常が報告されている.
3)GH単独欠損症:
幼児において低血糖発作で発症することがある.均整のとれた低身長を主徴とし,歴年齢に比し骨年齢の遅延がある(GH分泌不全性低身長症の項【⇨12-2-8)】を参照).
4)TSH単独欠損症:
遺伝性の下垂体TSH単独欠損症はTSH-β遺伝子異常により生じるが,きわめてまれである.生下時から甲状腺機能低下症状を呈する.非遺伝性では,視床下部TRHの障害による視床下部性甲状腺機能低下症がみられる.
5)PRL単独欠損症:
分娩後の乳汁分泌を認めず,きわめてまれである.
治療
 下垂体機能低下症に準じ,ホルモン補充療法を行う.[島津 章]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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