不凍蛋白質(読み)フトウタンパクシツ

デジタル大辞泉 「不凍蛋白質」の意味・読み・例文・類語

ふとう‐たんぱくしつ【不凍×蛋白質】

生体内において、氷の結晶成長を抑え、凍結を防ぐはたらきをもつたんぱく質総称。1960年代に、南極に生息するノトセニア科の魚の血液から初めて単離され、その後、昆虫や身近な野菜・きのこなどから発見された。冷凍食品や移植用臓器の保存などへの応用が進められている。耐凍たんぱく質。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「不凍蛋白質」の意味・わかりやすい解説

不凍蛋白質
ふとうたんぱくしつ
antifreeze protein

生体において体液凝固点を下げる性質をもつ蛋白質の総称。1950年代に自然界における存在が判明し,1960年代に南極海(南氷洋)に生息する魚の血液中に見出された。以来,低温環境下に生息する多くの生物から多様な不凍蛋白質が発見されている。等重量の食塩の 2倍,等モル濃度では 500倍の凍結防止効果があり,氷点下で生きる生物の体液が凍らないよう保護している。
凍結防止の機構は解明されていないが,不凍蛋白質は氷核の表面に結合し,氷結晶の粗大化を妨げることで凝固点降下を誘導すると考えられている。水分の凝固点降下を引き起こす一方融解点を変化させないので,再凍結を阻害することができる。このメカニズムは,冷凍食品の品質改善に活用されている。不凍蛋白質を食品に添加することで,長期間の冷凍保存の際に氷結晶の成長を抑制し,解凍時の品質低下を防ぐことができる。また,医療分野における細胞保存技術や,熱交換器の霜付き問題へ応用されることも期待されている。しかし,希少性が高く,生物からは少量しか入手できないうえに,抽出精製の技術にも課題がある。化学合成または遺伝子操作人工製造した不凍蛋白質は,天然由来のものと比べて性質が劣る。近年,精製技術の確立に向けて研究が重ねられている。
不凍蛋白質とは逆に,ある種の細菌には凍結促進蛋白質がある。この細菌は,植物の葉の上で水の結晶化を促し,破壊された組織に侵入して霜害をおこす。この蛋白質は,氷の結晶核の鋳型になって過冷却水の凍結を促進すると考えられている。

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