不正競争防止法(読み)ふせいきょうそうぼうしほう

精選版 日本国語大辞典 「不正競争防止法」の意味・読み・例文・類語

ふせいきょうそう‐ぼうしほう フセイキャウサウバウシハフ【不正競争防止法】

〘名〙 事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するための法律。昭和九年(一九三四)制定。平成六年(一九九四新法が施行された。

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デジタル大辞泉 「不正競争防止法」の意味・読み・例文・類語

ふせいきょうそう‐ぼうしほう〔フセイキヤウサウバウシハフ〕【不正競争防止法】

事業者間の公正な競争と国際約束の的確な実施を確保するために、不正競争の防止ならびに不正競争に関する損害賠償について定めた法律。昭和9年(1934)制定、平成5年(1993)全面改定。広く知られている他人の氏名・商号・商標・標章などの商品表示の使用、そのような表示によって混同を生じさせる商品の譲渡や展示、虚偽の原産地・品質等の表示をする誤認惹起行為、営業秘密侵害行為(窃取・詐欺・強迫その他の不正の手段で営業秘密を取得する行為や、その営業機密を開示する行為)、ドメイン名の不正取得、外国公務員への贈賄などを不正競争として禁じる。これらの行為に対して、差止請求・損害賠償請求・信用回復の措置請求などが行える。

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改訂新版 世界大百科事典 「不正競争防止法」の意味・わかりやすい解説

不正競争防止法 (ふせいきょうそうぼうしほう)

不正競争行為を防止するため,そのうちの一定の主要な不正競争行為を規制する法律。1934年公布の旧法が1993年に全面改正された。当初は工業所有権の保護に関する1883年3月20日のパリ条約(通称〈工業所有権保護同盟条約〉)のハーグ改正条約(1925)に日本が加入するにあたり,条約上の義務を履行するための法律として制定された。その後の改正で,その私法的性格にしだいに公法的色彩が加わってきたが,禁止対象が限定的であるなど,不正競争防止に十分でなかったが,近年の改正で内容的に強化整備された。

 不正競争防止法は,広義では,工業上または商業上の公正な慣習に反するすべての競争行為を規制する法を意味する。それは,各個の競業者のみならず,競業者全体,さらには消費者をも加えて構成される競争の場の公正を確保しようとするものである。不正競争防止法の発展は,フランス民法1382条を根拠としたフランス判例法の功績に帰せられている。これをさらに発展させ体系的に整序したのは,1909年のドイツ不正競争防止法に基づく判例法ならびに学説であるとされる。ドイツでは1909年法に至って,はじめて競争上善良な風俗に反するすべての行為を禁止する一般条項が制定され(1条),これにより包括的な不正競争防止に関する判例法が発展した。日本の不正競争防止法は,いまだこの一般条項を持たず,特定の行為のみを同法の不正競争行為として列挙するが,内容的に強化された。すなわち,1990年,93年の改正によって,一般条項は持たないものの,周知の氏名,商号,商標,包装など他人の商品表示と同一・類似のものの使用により商品・営業主体の混同をさせる行為(商品形態も周知となり出所を示すようになると表示であると解され,本法は特許法,意匠法に似た働きをする),著名な商品・営業表示と同一・類似のものの使用行為,商品形態の模倣行為,営業秘密の不正使用行為(例えばノウ・ハウの盗用行為),商品の原産地・出所地の詐称行為(例えば,ブドウ酒のシャンパンコニャックなどの原産地名称),商品の品質,内容,製造方法,用途,数量の誤認を生じさせる行為(例えば誇大広告行為),虚偽事実の陳述・流布による営業誹ぼう行為,工業所有権保護同盟条約(パリ条約)同盟国などにおいて商標権を有する者の日本における代理人・代表者が,当該商標と同一または類似のものを正当の理由なく無断で使用する行為(エージェントの商標盗用など)等,広汎に不正競争行為が規定されている。

 このような行為によって営業上の利益を害せられた者は,民事的救済として,行為の差止め(3条),損害賠償(4条),信用回復措置を請求することができる(7条)。差止請求(差止請求権)には,加害者の不正競争目的など主観的要件を立証する必要はない。損害賠償請求には,加害者に故意または過失のあることが必要である。信用回復措置のためには,新聞紙上への謝罪広告請求が一般に行われる。

 不正競争防止法は,外国の一定の紋章,旗章など,あるいは,一定の国際機関の紋章,旗章などを,その国の官庁・当該機関に無断で商標として使用することなども禁止する(9条,10条)。

 これは,公益保護規定であり,その違反に対しては,刑事的救済だけが定められている。刑事罰は,当初罰金刑のみであったが,その後の改正によって懲役刑も定められ(13条),法人については,1億円以下という高額のいわゆる両罰規定がもうけられた(14条)。罰則は特許法違反などと異なり非親告罪である。しかし,民事的救済の訴権は営業者に限定されている。ドイツ,スイスなどの不正競争防止法では営業者団体や消費者団体,さらには消費者にも訴権を認めている。不正競争防止法も,過去の競争業者の保護法から,競争秩序における不正行為禁止に関する基本法へ進展する途上にある。
虚偽表示 →商標 →ノウ・ハウ
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「不正競争防止法」の意味・わかりやすい解説

不正競争防止法
ふせいきょうそうぼうしほう

事業者の公正な競争を促すため、製品を模倣したり、顧客名簿や設計図などの営業秘密を不正に取得したりする行為を規制(禁止)する法律。平成5年法律第47号。不競法と略すこともある。映画、音楽、小説などは著作権法、発明技術は特許法、ブランドは商標法で保護されているが、これらの法律で保護しきれていないビジネス上の知的財産権・ノウハウ・営業秘密などを保護する目的がある。グローバル化による国境を越えた企業スパイの横行や、急速なデジタル技術の進展にあわせ、たびたび改正されている。不正競争行為には、(1)他の商品等の表示(氏名、商号、商標、包装、容器等)を使って他人の商品・営業と混同させる、(2)他の商品等を模倣する、(3)他の事業者の営業秘密を取得・使用・開示する、(4)営業上のプログラム等の効果を妨げる装置を提供する、(5)不正利益の取得や他の事業者に損害を与えるため他の事業者のドメインを使う、(6)原産地などを誤認させる、(7)競争者の信用を害する虚偽事実を告知・流布する、(8)外国の商標と同一・類似の商標を使用した商品等を譲渡・輸出する、などが該当する。未遂も刑事罰の対象で、不正に取得した利益(犯罪収益)は没収される。被害を受けた事業者の告訴がなくても起訴できる(非親告罪)。違反した場合、個人には10年以下の懲役または2000万円以下(外国企業の場合は3000万円以下)の罰金を科し、法人の場合、5億円以下(外国企業の場合は10億円以下)の罰金を科す。

 不正競争防止法の起源は工業所有権の保護に関するパリ条約(1883)のヘーグ改正条約(1925)に加入する必要から、1934年(昭和9)に制定された旧不正競争防止法にさかのぼる。世界知的所有権機構(WIPO)が1992年、不正競争防止法の国際的な整合性を加盟各国に求めたことから、1993年(平成5)に全面改正され、類似表示や模倣行為が規制された。1998年には外国公務員への贈賄禁止が盛り込まれ、2003年(平成15)に営業秘密の保護規定が明記された。2005年には、模倣品・海賊版商品の販売、輸入等にも厳罰化が図られた。2015年には海外への流出防止と罰則強化に重点を置いた改正がなされ、2017年時点では事業者が保有するビッグデータ保護のための法改正も検討されている。

[矢野 武 2018年4月18日]

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百科事典マイペディア 「不正競争防止法」の意味・わかりやすい解説

不正競争防止法【ふせいきょうそうぼうしほう】

不正手段により同業者の利益を害する営業上の競争行為のうち特定のものを防止するための法律(1934年公布,1935年施行)。工業所有権保護同盟条約のハーグ改正条約(1925年)加入のため制定。他人の商品・営業の表示と同一または類似の表示の使用,原産地詐称,不実広告,虚偽事実の流布による信用毀損(きそん)等の行為により被害を受けた者は,不法行為としてその行為の差止めや損害賠償を請求し得る。1993年に全面改正(1994年施行)され,営業秘密・著名標識・商品形態の模倣からの保護が規定された。1990年代後半から2000年代の急速な情報化とグローバル化の進行のなかで,とくに知的財産権をめぐる問題が急増,対応を迫られ,2001年以降数次にわたって改正された。主な改正は,2005年改正の主に情報窃盗に関する営業秘密の刑事罰的強化,2006年改正の営業秘密,秘密保持違反罪の罰則強化,2009年年改正の営業秘密侵害罪の処罰対象範囲の拡大,2011年改正のマジコン(テレビゲームソフトをコピーしたりイメージファイルを起動されるための機械の総称)に関する刑事罰導入などである。
→関連項目商号不当表示

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知恵蔵 「不正競争防止法」の解説

不正競争防止法

他人の商号、商標、商品形態などと類似あるいは模倣した商品の販売、営業秘密の不正取得、コンピューター・プログラムのコピープロテクト外し、ドメイン名の不正取得など不正な手段による商行為を取り締まる法律。パリ条約上の義務を担保するために1934年制定、93年に全面改正。他の知的財産権関係法規が特許権、著作権など個別の権利を排他的、積極的に保護するのに対し、不正競争防止法は既存の知的財産権への侵害行為を取り締まり、当該権利を間接的に保護している。現行法は、不正行為となる15の個別類型を列挙し、差止請求権、損害賠償請求権などを認めており、知的財産権への侵害行為に対する迅速かつ実効性ある対抗手段として利用されている。2005年6月の法改正では、模倣品・海賊版対策の強化、営業秘密の国外での使用・開示処罰の導入や退職者に対する秘密漏洩の処罰の導入などが図られた。06年6月の改正では、実効性を高めるために、法人への罰金刑の上限が3億円へと引き上げられた。

(桜井勉 日本産業研究所代表 / 2007年)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「不正競争防止法」の意味・わかりやすい解説

不正競争防止法
ふせいきょうそうぼうしほう

昭和9年法律 14号。特定の不正競争行為を不法行為として防止するための法律。工業所有権保護に関する同盟条約のハーグ改正条約 (1925) に加入する必要から,制定された。すなわち他人の商品と混同を生ぜしめる行為,他人の営業上の施設または活動と混同を生ぜしめる行為,商品の原産地を誤認せしめる行為,商品の品質内容数量などを誤認せしめる行為,他人の営業上の信用を害する行為,商標権者の代理人などの商標不当使用行為を防止するのを目的とする。被害者には不当競争行為の差止請求権,損害賠償請求権がある。外国の一定の国家的紋章,旗章などをその国の許可なく商標に使用することなどを禁止する。 1997年,新たな時代環境に対応して見直され,平成5年法律 47号として制定された。その後も 2001年にはドメイン名の不正使用,取得規制が盛り込まれている。 (→不公正な取引方法 )  

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流通用語辞典 「不正競争防止法」の解説

不正競争防止法

昭和9年(1934)に制定された法律で、その目的は営業上の不正競争行為をなくし、商業道徳に反する不当な侵害から個々の営業主体を保護しようとすることである。不正競争行為の具体的なものとしては、つぎのようなものがある。(1)人の氏名、商号、商標、容器包装などと同一または類似のものを使用し、または販売する行為、(2)他人の営業上の表示と同一または類似のものを使用し、他人の営業活動等と混同させる行為、(3)虚偽の原産地を表示し、または表示した商品を販売する行為、(4)産地を誤認させる行為、(5)商品の品質、内容、製造方法、用途、数量について誤認を与えるような表示をし、また表示した商品を販売する行為、(6)競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布する行為があげられる。以上のような行為を行なった者は、被害者に対して損害賠償の責任があるほか、処罰される。

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ASCII.jpデジタル用語辞典 「不正競争防止法」の解説

不正競争防止法

同業者間の不正な競争を防止する目的で施行された法律。他社の商品の形態をコピーするなどの、商品を誤認させる行為や、商品の製造などに関する機密内容を不正に取得する行為などが罰則の対象となる。1993年に大幅な改正が行われ、違反者への罰則が強化された。さらに、2005年には、模倣品・海賊版商品の販売、輸入等に刑事罰を科するなどの保護強化が図られた。

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世界大百科事典(旧版)内の不正競争防止法の言及

【競争】より

…さらに製品分化がある寡占や独占的競争市場では,品質の選択や情報提供のための広告費の増減による非価格競争や新技術導入のための競争が行われることも特色である。【川又 邦雄】
[企業間競争の法的規制]
 日本の現行法の中で,直接に企業間競争にかかわる規制をなすことを目的とする代表的な法律に,独占禁止法不正競争防止法がある。不正競争防止法は,営業者が自己の広く知られた氏名,商号,商品等を他人によって用いられ,営業上の利益を害されることを差止めによって防ぐことを目的とするもので,一般に,商業道徳ないしは商業倫理の観点から利潤獲得の手段としての競争をとらえ,同業者間の利害を調整するための法と解されている。…

※「不正競争防止法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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