中井正一(読み)なかいまさかず

精選版 日本国語大辞典 「中井正一」の意味・読み・例文・類語

なかい‐まさかず【中井正一】

美学者。広島県出身。本名、浩。京都帝国大学哲学科卒。昭和一〇年(一九三五)に月刊誌世界文化」、翌年雑誌土曜日」を創刊したが、同一二年、治安維持法違反により検挙戦後国立国会図書館副館長に就任主著美学入門」「委員会論理」など。明治三三~昭和二七年(一九〇〇‐五二

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デジタル大辞泉 「中井正一」の意味・読み・例文・類語

なかい‐まさかず〔なかゐ‐〕【中井正一】

[1900~1952]美学者。広島の生まれ。雑誌「世界文化」を創刊、反ファシズム運動を展開するが、治安維持法により検挙。第二次大戦後、国立国会図書館の初代副館長。著作に「美学入門」「美と集団の論理」「委員会の論理」など。

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改訂新版 世界大百科事典 「中井正一」の意味・わかりやすい解説

中井正一 (なかいまさかず)
生没年:1900-52(明治33-昭和27)

哲学者。広島県竹原町に生まれた。京都大学哲学科を卒業,講師となる。1930年に雑誌《美・批評》を創刊。33年に京都大学法学部教授滝川幸辰が文部大臣によってその自由主義思想のゆえに職を免ぜられる事件(滝川事件)が起こり,こうしたファシズムの危機に対抗するため,35年に《美・批評》を改題して月刊誌《世界文化》とするにあたり,その中心となった。36年にはこれと並行して斎藤雷太郎の出していた《京都スタジオ通信》を《土曜日》と改題して月2回刊の文化通信とし,巻頭言を書いた。37年11月に《世界文化》同人とともに治安維持法違反で検挙され,懲役2年執行猶予2年の判決を受けて,以後沈黙を余儀なくされた。第2次大戦後は尾道図書館長,48年に国会図書館副館長に就任。自然の模倣理論を超えて機械の美ととりくむ《美学入門》,コミュニケーションの歴史を再考して集団的思考への道をひらく《委員会の論理》,集団的主体の成立の条件をさぐる《スポーツ気分の構造》などで前人未踏の領域にふみこんだ。
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図書館情報学用語辞典 第5版 「中井正一」の解説

中井正一

1900(明治33)-1952(昭和27).広島県竹原市出身.美学者,国立国会図書館副館長.京都大学哲学科卒業後,戦前のファシズム的風潮に対抗して,久野収らとともに雑誌『世界文化』(1935-1937)と『土曜日』(1936-1937)を創刊するが,1937(昭和12)年,「治安維持法」違反で検挙.第二次大戦後,1945(昭和20)年に尾道市立図書館長,紆余曲折の末1948(昭和23)年に設置された国立国会図書館副館長に就任した.1949(昭和24)年6月から1952(昭和27)年5月,日本図書館協会理事長として,戦後混乱期の中にあった図書館界を結集,「図書館法」制定に尽力する.論文「委員会の論理」(1936),著書『美と集団の論理』(1962)などを執筆,また,機能主義的図書館論を展開した.

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「中井正一」の解説

中井正一 なかい-まさかず

1900-1952 昭和時代の美学者。
明治33年2月14日生まれ。深田康算(やすかず)にまなぶ。昭和5年同人誌「美・批評」を創刊,10年同誌を「世界文化」と改題。反ファッショ人民戦線の動向などを紹介するとともに民衆の側にたっての理論活動をめざし,「委員会の論理」などを発表。11年週刊紙「土曜日」を発刊。12年治安維持法違反で母校京都帝大講師の職を追われた。23年国立国会図書館初代副館長。昭和27年5月18日死去。52歳。広島県出身。本名は浩。著作に「美学入門」「日本の美」など。
【格言など】「ああ,そうであったのか」それが人知の極致である(「芸術における媒介の問題」)

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世界大百科事典(旧版)内の中井正一の言及

【世界文化】より

…しかし,執筆者があいついで検挙され,廃刊した。同人は中井正一(まさかず),新村猛,久野収,武谷三男,真下信一,和田洋一,禰津正志(ねづまさし)などの京都大学出身者で,京都で発行された。西欧の反ファシズムの潮流の紹介(〈世界文化情報〉)のほか,中井正一《委員会の論理》のような独創的論文の発表の場となった。…

【土曜日】より

…当初は《京都スタジオ通信》として1935年8月に映画の大部屋俳優であった斎藤雷太郎により創刊され,第12号から《土曜日》と改題された。改題以後は中井正一,能勢克男が編集に加わる。フランスの人民戦線の流れをくむ活動で,映画についての記事があり,喫茶店におかれるなど,大衆文化との接触を保ち,半世紀後の日本の各都市のタウン誌の先駆でもあった。…

【反ファシズム】より

…〈反ファシスト知識人監視委員会〉の運動を紹介した,1934年10月の小松清の〈仏文学の一転機〉は大きな反響を呼び,知識人の行動と連帯が雑誌《行動》を中心に広く論議されるが,左翼教条主義の立場からの攻撃で翌年半ばには反ファシズム戦線の萌芽は踏みにじられてしまう。次いでフランスの人民戦線政府に触発されて36年から37年にかけて,舟橋聖一らの〈行動文学〉,林房雄の〈独立作家クラブ〉,1935年成立の〈日本ペンクラブ〉,京都の中井正一らの《世界文化》と《土曜日》などの雑誌,新聞,組織,さらに三木清,中島健蔵,清沢冽らの個人が,ヒューマニズムの提唱というかたちでファシズムへの抵抗を呼びかけるが,37年の日中戦争開始とともに,それらの動きはことごとく一掃されてしまうのである。レジスタンス文学【渡辺 一民】
[イタリア]
 イタリアの文学史は20世紀の圧倒的なファシズム支配下の時代を指して,しばしば〈黒い20年間〉と呼んでいる。…

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