付合(文学)(読み)つけあい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「付合(文学)」の意味・わかりやすい解説

付合(文学)
つけあい

文芸用語。連歌(れんが)、俳諧(はいかい)において、五・七・五と七・七の句を付け合わせたもの。また、その2句の間で縁のある二つのことば(「寄合(よりあい)」ともいう)、たとえば朝日と松、松と鶴(つる)、柳とつばめ、梅と鶯(うぐいす)などをいうこともある。

 2句を付け合わせる場合、先に出されている句を前句(まえく)、後から付ける句を付句(つけく)という。五・七・五の長句と、七・七の短句の、いずれもが前句になり、また付句にもなりうる。2句のみを付け合わせる短連歌の付合は、比較的単純な機知を主とするものが多いが、2句以上、連鎖的に付け進められる長連歌が成立して、百韻(100句)や歌仙(36句)の形式が完成し、俳諧が盛んになると種々の方法がくふうされ、物付(ものづけ)、心付(こころづけ)、匂付(においづけ)などが行われた。

 物付は、連歌における詞付(ことばづけ)と寄合付(よりあいづけ)をあわせたもので、前句の中の素材やことばに縁のある素材やことばを用いて付句を付けるやり方をいい、貞門俳諧特色とされる。たとえば「悋気(りんき)いはねど身をなげんとや」(貞徳)の「悋気」に「嫁」、「身」に「刀」というように縁のあることばを考え、「我が嫁が男の刀ひんぬいて」(同)と付けるようなもの。

 心付は、前句の意味や心情をとらえて、そのよってくる理由や、そこから展開する情景などを付句に仕立てる方法をいい、談林(だんりん)俳諧の特色とされている。「待宵(まつよひ)の鐘にも発(おこ)る無常心」(宗因)に、「こひしゆかしもいらぬ事よの」(同)と付けるようなもの。ただし談林の心付は、貞門の物付の性格の部分的拡大にすぎないとの説もある。

 匂付は、前句に余情として感じられる情調や気分に、付句の情調や気分を感合、映発させて付ける付け方をいい、蕉風(しょうふう)俳諧の特色とされる。たとえば「鼬(いたち)の声の棚もとの先」(配刀)から余情として佗(わ)びた気分(匂い)を感じとって、同じく佗びの気分を感じさせる「箒木(ははきぎ)はまかぬに生(は)えて茂るなり」(芭蕉)を付けるようなもの。

 匂付の手法として、さらに、うつり、ひびき面影(おもかげ)、位(くらい)、などの付け方が考えられている。うつりは映り、または移りで、前句の表現がその気分を受けて自然に加減されて付句に生かされるような付け方をいい、ひびきは前句の勢いに応じて、同じように緊張した調子の句を付ける付け方をいう。また、面影は俤(おもかげ)とも書き、故事古歌などをよりどころとしながら、それをあからさまには表さず、それとなくほのめかすような付け方をいい、位は前句の品位に応じてそれにふさわしい品位の句を付ける付け方をいう。

[山下一海]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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