会社法(読み)かいしゃほう

精選版 日本国語大辞典 「会社法」の意味・読み・例文・類語

かいしゃ‐ほう クヮイシャハフ【会社法】

〘名〙 会社の設立、組織、機関、解散、清算および社員の権利義務などについて規定した法規の総称。形式的には商法第二編および有限会社法の規定をいう。〔英和商業新辞彙(1904)〕

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デジタル大辞泉 「会社法」の意味・読み・例文・類語

かいしゃ‐ほう〔クワイシヤハフ〕【会社法】

会社の設立、組織、運営、管理などについて定めた法律。従来は商法第2編、商法特例法、有限会社法など、会社に関して規定した法を総称して「会社法」と呼んでいたが、これらを統合、再編して成立したのが現在の会社法。平成18年(2006)5月施行。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「会社法」の意味・わかりやすい解説

会社法
かいしゃほう

会社法の意義

国家の権力によって実行されるルールとしての法には、形式的意義と実質的意義とがあり、形式的意義においては、その名のとおりの法律(法典)を意味し、実質的には、その名で理論的統一的に理解できる法の分野を意味する。実質的意義における商法を企業法と理解する立場(企業法説)から、会社企業の存立と活動を保障し、企業をめぐる利害関係を調整することを目的とする法分野を、実質的意義における会社法とよぶ。会社法は、企業組織に関する法の中心として、企業法の重要な一領域に位置づけられる。会社企業が私的利益追求の動機に支えられて利用される以上、反社会的または非倫理的な行動がおこることは現実に少なくない。会社法は、そうした会社制度利用の弊害を除去し、その発生を予防して、会社企業の活動の適正化を図ることも目的としている。さらに、今日では、会社企業の価値を向上させるために、ガバナンスの強化をも図っている点が注目されている。会社法は、私的利益の合理的で効率的な調整を目的とする民事分野の実体法のルールを中心に構成されているが、その実現を確保するうえで機能的に関連する訴訟法のルールや、刑事分野の罰則のルールを含んでいる。

 この実質的意義における会社法が現実に存在する形式(法源)として、会社法という名の法律(会社法典)がある。形式的意義における会社法とは、会社法典=「会社法」(平成17年法律第86号)のことをいう(2005年6月29日成立、2006年5月施行、対価柔軟化に関する規定は2007年5月1日施行)。

[福原紀彦 2021年6月21日]

会社法典(形式的意義の会社法)の制定・構成

「会社法」は、会社法の現代語化(片仮名・文語体から平仮名・口語体への変更)にとどまらず、社会経済情勢の変化に対応した会社法制の現代化(規制緩和、会社経営の機動性・柔軟性の向上と健全性の確保)を目的として、従来の「商法」第2編、「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」(商法特例法)および「有限会社法」等に散在していた会社に関する法規律を一つの法典に統合して再編した法律である。

 会社法の制定と同時に、「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」いわゆる会社法整備法が制定され、一部の法律の廃止、「商法」の一部改正、「有限会社法」等の廃止と「商法」の一部改正に伴う経過措置、その他の関係法律の整備等を定めた。また、会社法においては、技術的・細目的事項について、約20項目にわたる事項が政令に、約300項目にわたる事項が省令に委任され、会社法施行令、会社法施行規則、会社計算規則および電子公告規則が制定された(これらは、以後の関連法令の制定等により改正されている)。

 現行の会社法は、「会社の設立、組織、運営及び管理については、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる」と規定して(1条)、全8編からなり、下記のような構成のもとに会社に関するもろもろの事項を規律している。すなわち、第1編「総則」(1条~24条。会社法の目的、定義等、会社に関する基本的事項)、第2編「株式会社」(25条~574条。設立、株式、新株予約権、機関、計算、定款変更、事業譲渡、解散、清算等、株式会社の組織・運営等に関する事項)、第3編「持分(もちぶん)会社」(575条~675条。合名会社合資会社および合同会社の組織・運営等に関する事項)、第4編「社債」(676条~742条。社債に関する事項)、第5編「組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転及び株式交付」(743条~816条。組織変更、合併、会社分割、株式交換および株式移転、株式交付の契約の内容、手続および効果等に関する事項)、第6編「外国会社」(817条~823条。外国会社に関する事項)、第7編「雑則」(824条~959条。会社の解散命令等・訴訟・非訟・登記・公告に関する事項)、第8編「罰則」(960条~979条。罰則に関する事項、および罰則)である。

[福原紀彦 2021年6月21日]

会社法の特徴

2005年(平成17)制定の会社法では、形式的な改正として現代語化が行われ、用語・表記の修正、法典の整理統合、編立ての整理、規律の明確化と表現される改正作業が行われた。そこには、「法令工学」上、注目すべき諸点がある(ここに法令工学とは、法令の作成やその改定などを工学的基盤のうえで行う支援環境の構築を目ざす新しい試みをいう)。すなわち、会社形態を株式会社と持分会社とに類型化して、旧来の有限会社をも含む多様な株式会社の実態に即した法規範を整え、各会社による適用規範へのアクセスを容易にするために、工学的な発想やくふうが見受けられる。2000年代以降にみられる立法全般にわたるくふうと軌を一にして、詳細な定義規定を置くこともそうであるが、条文経済上の節約(条文数をなるべく増やさないようにすること、制度に共通項があればなるべく整理して条文を作成すること)をいとわず、従来の準用規定を極力用いないようにしている。

 また、多様化した株式会社規律の整理にあたっては、典型的な株式会社像を対象として原則規定を設けたうえで(ミディアム・スタンダード方式)、閉鎖的な会社の例外や、大規模または小規模の会社の例外を、特例法を含めて用意するという従来の立場を改め、もっとも簡潔な形態の会社を対象とした規律を定めたうえで(ミニマム・スタンダード方式)、順次、必要に応じて複雑性を増す形態の会社を対象とした規律を付加していく立場をとっている。多様化する株式会社形態の規律を網羅していくうえで必要なくふうである。

 さらに、対象の現象的な相違にかかわらず、適用すべき共通規律をみいだして、その共通規律を因数にもつ法概念を用意する手法が用いられている。法概念を数式になぞらえれば、いわゆる因数分解によって、必要な規律の本質を明らかにすることに資する。たとえば、自己株式の有償取得を、すべて横断的に「剰余金の分配」という概念のもとに整理し、分配可能額を超えてはならないとの財源規制を課している(461条1項)。

[福原紀彦 2021年6月21日]

2014年改正

新しい単行法としての会社法の施行後も、社外取締役機能の活用をはじめコーポレートガバナンス企業統治)の改善・強化についてさまざまな提言や取組みが行われた。また、日本企業の業績低迷や競争力低下、日本市場の国際的地位の低下に対する危機感や、経営に対する監督が有効に機能しないため日本企業のROA(総資産利益率)やROE(自己資本利益率)が欧米企業より低くなっているという懸念があった。他方で、持株会社を中心とした企業集団(企業グループ)の発展に伴い、企業集団としてのガバナンスを有効に機能させるため、会社法制定前から続く課題として、親子会社関係の規律(企業結合法制)について見直しが強く求められていた。

 それらの議論を受けて、2014年に会社法が改正された(平成26年法律第90号。2015年5月1日施行)。この会社法の見直しは、会社法制定以来初の本格的改正であり、内容は、(1)コーポレートガバナンスの強化(取締役会の監督機能の強化、社外取締役・社外監査役の活用、監査等委員会設置会社制度の創設等)と、(2)企業結合法制の整備(多重代表訴訟制度等の親子会社規律の整備、特別支配株主の株式等売渡請求権等、組織再編規律の再整備)を大きな柱として、多岐にわたっている。あわせて、「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(平成26年法律第91号)が成立し、その後、会社法施行規則、会社計算規則および電子公告規則についても、必要な改正が行われた。

[福原紀彦 2021年6月21日]

2019年改正

会社法は、さらに2019年(令和1)に改正され(令和元年法律第70号。2021年3月1日施行)、あわせて「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(令和元年法律第71号)が成立した。この会社法改正の内容として、(1)株主総会資料電子提供制度の導入や株主提案権制度の修正等による株主総会に関する規律の見直し、(2)取締役報酬規律の改善や社外取締役の活用の義務づけ等による取締役に関する規律の見直しを中心に、(3)その他、社債管理補助者制度の導入や株式交付制度の新設が行われている。

[福原紀彦 2021年6月21日]

『相澤哲編著『一問一答 新・会社法』改訂版(2009・商事法務)』『坂本三郎編著『一問一答 平成26年改正会社法』第2版(2015・商事法務)』『福原紀彦著『企業法要綱3 企業組織法――会社法等』(2017・文眞堂)』『竹林俊憲編著『一問一答 令和元年改正会社法』(2020・商事法務)』『神田秀樹著『法律学講座双書 会社法』第23版(2021・弘文堂)』

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百科事典マイペディア 「会社法」の意味・わかりやすい解説

会社法【かいしゃほう】

実質的には会社に関する固有の法体系として形成された特別法をいう。形式的意義の会社法は,従来は商法第2編の会社に関する規定を指していたが,2005年に会社法という独立の法律として立法化された。一部を除き2006年5月施行。全979条。その立法目的は,社会経済情勢の変化にかんがみ,会社に関する法制について改正を行うとともに,国民に理解しやすい法制とするため,これを現代表記によって一体のものとして再編成することにある。本法は株式会社,合名会社,合資会社と新設の合同会社の四つの会社形態を規定しており,この立法により有限会社法,商法特例法は廃止され,有限会社は将来的に消滅することとなった。改正の主眼は経営の機動力を高め,また企業の合併・買収やその防御の規制を緩和することにある。2009年3月〈会社法施行規則,会社計算規則等の一部を改正する省令〉が公布された。この改正は国際的な会計基準とのコンバージェンスの必要から企業結合に関する会計基準等が企業会計基準委員会によって公表されたことと近時の関係法令の改正等に伴い,会社法の委任に基づく会社計算規則について改正を行うとともに,同法の委任に基づく会社法施行規則についても見直し,同規則の一部を改正するもの,とされている。2011年11月〈会社法施行規則等の一部を改正する省令〉公布。〈会社法施行規則の改正〉では子会社の範囲に関して特別目的会社の特則を定めている会社法施行規則本文中の〈当該特別目的会社に対する出資者又は〉が削除され,〈特定目的借入れ〉が〈特定借入れ〉に改められるなどの改正が行われ,〈会社計算規則の改正〉では,開示対象特別目的会社の範囲の改正や米国会計基準による連結計算書類の作成の許容などの改正が行われた。2013年11月会社法改正法案が国会に上程された。この改正案は,2012年9月に法制審議会が採択した〈会社法制の見直しに関する要綱〉を踏まえ,(1)社外取締役・社外監査役の社外要件の見直し,(2)多重代表訴訟制度の創設,(3)監査等委員会設置会社制度の創設,(4)支配株主の異動を伴う第三者割当に対する規制,(5)特別支配株主の株式等売渡請求制度の創設などが盛り込まれている。
→関連項目委員会設置会社会計参与会社会社整理合併株券株式会社株式交換制度株式時価発行監査役企業再編公開会社合資会社合名会社資本金大会社代表取締役取締役取締役会法定準備金持分

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「会社法」の意味・わかりやすい解説

会社法
かいしゃほう

平成17年法律86号。旧商法第2編および旧有限会社法などを統合・一本化した。会社に関する私法的規定を実効性のあるものとするために不可欠な訴訟法的規定,非訟事件的規定,刑罰に関する規定を含む。これ以外に,各種の特別法令(銀行法,信託業法など)のうちの会社に関する規定,慣習法および会社の定款がある。また細目事項の多くを法務省令(会社法施行規則,会社計算規則,電子公告規則)にゆだねている。実質的意義では会社の組織およびその法律関係に関する私法をさす。
会社法では合同会社という新たな会社形態を創設し,合名会社合資会社と合わせて持分会社として総称する(575条1項)。会社法は,第一に,会社経営の機動性や柔軟性の向上といった観点から組織再編行為を見直し,合併などの対価の柔軟化,簡易組織再編行為にかかる要件の緩和のほか,略式組織再編の新設などが行なわれた。株式に関しては,株式の譲渡制限にかかる定款の自治の拡大などがなされた。また剰余金配当に関しては回数制限が撤廃され,取締役会による剰余金の配当の決定が一定の要件のもとで認められるようになった。取締役の責任に関する規定については,委員会設置会社とそれ以外の会社との調整がはかられた。第二に,会社経営の健全性といった観点から,株主代表訴訟制度の合理化がはかられ,また大会社においては内部統制システムの構築が義務づけられた。さらに,会計参与制度が創設されたほか,あらゆる株式会社において会計監査人を設置することが可能になった。このほか,特別清算制度が見直された(→清算)。

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改訂新版 世界大百科事典 「会社法」の意味・わかりやすい解説

会社法 (かいしゃほう)

会社に関する固有の法体系として形成された法律で2005年制定,06年施行(一部07年施行)。従来は商法第2編,有限会社法,商法特例法に分かれて規定されていた会社に関する法規制を社会経済情勢の変化にかんがみひとつの法にまとめ,現代表記により再編成した。全979条。本法は株式会社,合名会社,合資会社と新設の合同会社の4種の会社を規定しており,有限会社は将来的に消滅する。経営の機動性を高め,企業の合併・買収やその防御衛に関する規制を緩和することがその眼目で,会社の作り方が大幅に自由化される。その特徴は(1)最低資本金制度の廃止(1円以上で会社設立可),(2)株式譲渡制限会社では取締役会設置義務を廃止(役員1人でも可),(3)企業合併時の合併対価の柔軟化(現金または親会社や外国会社の株式でも可),(4)敵対的買収に対する防衛策としての拒否権付き株式発行等の認可などである。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

株式公開用語辞典 「会社法」の解説

会社法

会社法とは、会社の設立や運営のルールについて規定した法律。従来、日本には「会社法」という名称の単一の法律存在せず、会社の設立や運営のルールを定める「商法第2編 会社」、「有限会社法」、「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(商法特例法)」などを総称して「会社法」として呼んでいた。2005年に、これらを統合した「会社法」という名称の法律が成立したが、成立後間もないこともあり、この法律を「新会社法」とした。「新会社法」の特徴として、表現が従来のカタカナ・文語体からひらがな・口語体に改められ、分かりやすくなっていることが挙げられる。また、内容については、国際化・スピード化が進む経済・企業の実態に合うように、定款で定められる事項の拡大、会社形態の多様化、M&Aを始めとする手続きの簡素化などを進める一方で、大会社に内部統制システムの概要の開示を求めるなど、経営の透明化が図られている。

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会計用語キーワード辞典 「会社法」の解説

会社法

会社の設立や運営にあたってのルールについて規定した法律。

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世界大百科事典(旧版)内の会社法の言及

【会社】より

…また福沢諭吉の指導で1869年1月に設立された丸屋商社(のちの丸善株式会社)は,実質的に合資会社であった。国立銀行条例,取引所条例(1887),私設鉄道条例(同)などの特別法のほかは統一的な会社法を欠いたままに,会社の設立は活発となり,87年には会社数が2000社を上回り,翌年には資本金合計が1億円を超した。しかし89年秋からの恐慌で会社の破綻(はたん)が続出したことから,会社の法的規制は急務となった。…

※「会社法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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