倉敷(市)(読み)くらしき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「倉敷(市)」の意味・わかりやすい解説

倉敷(市)
くらしき

岡山県南部にある市。高梁(たかはし)川下流域の岡山平野西部と、児島(こじま)半島西部からなる。岡山市の西に隣接する。1928年(昭和3)市制施行。1930年福田村の一部、1944年中洲(なかす)町、1950年(昭和25)粒江(つぶえ)村、1951年菅生(すごう)、中庄(なかしょう)、帯江(おびえ)の3村、1952年豊洲(とよす)村の一部、1953年西阿知、連島(つらしま)、福田の3町、1954年藤戸町を編入。1967年高梁川右岸の玉島市、児島半島西部の児島市と対等合併した(自治地名は倉敷市)。さらに1971年庄村、1972年茶屋(ちゃや)町、2005年(平成17)船穂(ふなお)、真備(まび)の2町を編入した。2002年には中核市に移行。現在は倉敷、児島、玉島、水島の4中心からなる。面積は355.63平方キロメートル、人口47万4592(2020)。

[由比浜省吾]

歴史

古代、平野の大部分は海であったが、高梁川の堆積(たいせき)作用によりしだいにデルタが形成された。中世には万寿荘(ますのしょう)、大市荘(おおちのしょう)などの荘園が置かれた。戦国時代の領主交替を経て16世紀後半に宇喜多(うきた)氏が高梁川以東を領有、干潟開墾と八ヶ郷用水整備がなされ、平安時代には本土と児島間の要路であった藤戸の瀬戸も17世紀初期には陸化し、児島半島となった。江戸時代には天領のほか、岡山、松山(高梁)、成羽(なりわ)、新見(にいみ)、丹波(たんば)亀岡(かめおか)の諸藩や旗本の領地に分割された。1642年(寛永19)倉敷備前(びぜん)、備中(びっちゅう)、讃岐(さぬき)の幕府領を統轄する代官所が置かれ、以来、備中の政治、経済の中心となった。17世紀前半に大高地区と西阿知新田などが開かれ、その後玉島付近、茶屋周辺、福田新田などが次々に開発された。玉島は松山藩の外港であり、児島の通生(かよう)荘の下津井(しもつい)、田之浦(たのうら)、吹上(ふきあげ)などは瀬戸内海の重要な港であった。児島の味野(あじの)は江戸時代後期から塩田で知られた。

[由比浜省吾]

産業

江戸時代には倉敷代官所わきの倉敷川沿岸に蔵屋敷や問屋が並ぶ商業都市となった。これが地名の由来である。新田地帯の綿作を背景に児島では19世紀の初頭から織物業がおこり、明治になって倉敷、下(しも)村(児島)、玉島に近代紡績業が成立した。なかでも1888年(明治21)創立の倉敷紡績所(現、倉敷紡績)の発展は大きい。綿作衰退後はイグサが特産品になったが、これも1960年代以降の工業化、都市化に押されて著しく減少した。農業は米作のほかに果樹、野菜栽培がみられる。とくに船穂地区ではブドウ、モモの栽培が盛ん。水産業は漁場の狭隘(きょうあい)化と海水汚染のため漁獲量は減少傾向にある。下津井は歴史の古い漁村でもあり、タイやタコの漁獲で知られた。工業は繊維工業のほかに玉島に船舶用機関工場が立地し、第二次世界大戦末期に水島に航空機工場が置かれ、戦後は自動車工場に転換した。高度経済成長期には児島半島西岸から高梁川河口右岸にかけての浅海が埋め立てられ、製鉄・石油化学コンビナートの水島臨海工業地域が形成された。岡山県南新産業都市の中枢として発展、県の工業出荷額の過半を占め、従来の産業構造を大きく変化させた。商業は倉敷、児島、玉島、水島がそれぞれの商圏をもち、倉敷駅前が再開発されて近代化した。

[由比浜省吾]

交通

倉敷はJRの山陽本線、伯備(はくび)線の分岐点であり、山陽新幹線、山陽自動車道(倉敷、玉島各インターチェンジ)、国道2号、429号、430号、486号が通じ、備中の交通の要地である。さらに本州四国連絡橋坂出(さかいで)ルートの完成により四国と結ばれ、JR瀬戸大橋線が通じ瀬戸中央自動車道が走る。新幹線の新倉敷駅は玉島にあり、水島臨海鉄道は倉敷と水島を結ぶ。また、北西部を井原(いばら)鉄道が横断する。重要港湾の水島港は、コンビナートへの大型貨物船の出入りが多い。

[由比浜省吾]

文化・観光

1834年(天保5)に倉敷代官所に郷学明倫館が置かれ、1914年(大正3)に大原奨農会が農業研究所(後の岡山大学農業生物研究所。現、岡山大学資源植物科学研究所)を創立した。1930年(昭和5)日本最初の西洋近代美術館の大原美術館が設立された。倉敷川沿いは倉敷民芸館、倉敷考古館などもあり、国の重要伝統的建造物群保存地区。倉敷紡績最初の工場はホテルに改装されて人気を集めている。熊野神社、円通寺、蓮台(れんだい)寺などの古社寺もある。鷲羽山(わしゅうざん)(国指定名勝)は瀬戸内海国立公園の一部で絶好の内海展望台、六口(むくち)島の象岩は国指定天然記念物である。そのほか、市立美術館、自然史博物館などの文化施設、マスカットスタジアム(倉敷スポーツ公園野球場)などのレクリエーション施設がある。また、くらしき作陽大学、倉敷芸術科学大学、岡山学院大学、川崎医科大学などがあり、学園都市でもある。

[由比浜省吾]

『『倉敷市史 復刻版』全11巻(1974・名著出版)』『『新修倉敷市史』全13巻17冊(1994~2005・倉敷市)』


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