切・伐・斬・截・剪(読み)きる

精選版 日本国語大辞典 「切・伐・斬・截・剪」の意味・読み・例文・類語

き・る【切・伐・斬・截・剪】

[1] 〘他ラ五(四)〙
[一] つながっているもの、続いているものなどを断つ。また、付いているものを離す。
刃物などで、一続きのものに力を加えて分け離す。
書紀(720)神代上(水戸本訓)「所帯(はかせる)十握劔(とつかのつるぎ)を抜いて、其虵(をろち)を寸(つたつた)に斬(キル)
② 特に、刀で傷つけたり、また、殺したりする。
平家(13C前)一〇「中将、南都へわたされてきられ給ひぬときこえしかば」
③ 結びついているものや閉じているものを離したり、開けたりする。また、つながっている関係や継続する事柄、続いている気持や話などを断つ。
※談義本・風流志道軒伝(1763)四「いつしか客も粋に成て、立ひき・いきはり、のく・切るの気味合事まで、さして替れる事もなし」
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉三「あんまり人を馬鹿にすると電話を切って仕舞ふよ
④ あるものごとをあばいたり、批判したりする。「世相を斬る」
⑥ 約束を破棄する。
※黒い眼と茶色の目(1914)〈徳富蘆花〉六「然(しか)し敬二は所詮約束は切(キ)らねばならぬと思ふた」
⑦ 辞職させる。解雇する。
※鉛筆ぐらし(1951)〈扇谷正造〉特オチ物語「従って新総長の平賀博士の任務は、土方河合両教授を切ることである」
⑧ 入場者の切符を確かめ、はさみを入れる。
※幼学読本(1887)〈西邨貞〉七「見給へ、今鉄道の掛りの人が入口を開きたり。是れより切符を切りて旅客を汽車に乗らしむる所なり」
⑨ 水や空気などの中を分けるように勢いよく進む。また、続いている列や、道、線、流れなどの中途を横に渡って通る。横切る。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)二「流を截(キリ)て渡りて、彼の岸に至ること得つ」
⑩ 道など通れないようにさえぎる。
※太平記(14C後)一七「五千余騎、牡丹の旗・扇の旗、只二流差揚て、敵に跡を切られじと、四条を東へ引亘(ひきわた)して、さきへは態(わざと)進まれず」
⑪ 双六(すごろく)で、相手のじゃまになる所へ石をやる。また、囲碁で、相手の石が連絡しないようにじゃまをする。
曾我物語(南北朝頃)二「碁にきりてしかるべきところ有けるを」
⑫ トランプやカルタ、花札などで、同種の札がつながらないように、また、数が順序よく続かないようにまぜ合わせる。
※鳥影(1908)〈石川啄木〉四「『新しく組を分けるんですよ』と、富江は誰に言ふでもなく言って、急(いそが)しく札を切る」
⑬ トランプやカルタで、切り札を使う。
咄本・露新軽口ばなし(1698)三「きりときったれば、つんとあがられぬ」
⑭ 部屋や土間の一部を掘り下げて、炉やこたつを作る。また、部屋の一部をくりぬいて窓をとりつける。
※金毘羅(1909)〈森鴎外〉「土間の真中に切ってある炉の傍に来て」
⑮ 手術をする。切開して患部をとり除く。
※夕せみ(1899)〈永井荷風〉上「切って戴けば、全快(なほ)るんですって」
⑯ 振ったり、しぼったり、ふいたりして水分を取り去る。
※行人(1912‐13)〈夏目漱石〉帰ってから「父の書斎花瓶の水を易へながら、乾いた布巾で水を切(キ)ってゐた」
⑰ (量目の一定した金銀貨がなかった時代に、竿金(さおがね)、竹流金(たけながしきん)などを必要なだけ切って使ったことから) 両替をする。
※正宝事録‐一九七二・享保九年(1724)一一月二八日「右之通相触候以後銭買候者有之時、小判小粒切候者有之節、当分無之由を申」
⑱ (綴られているものを切り取って使うところから) 手形伝票などを発行する。
※影の車(1961)〈松本清張〉五「草村の切る伝票にも相当な誤魔化しがあった」
[二] 物事に区切りをつける。
① 時間や時期を限定する。期限を決める。
※玉塵抄(1563)一六「須達が物を人にかして利を高して質を高をやすうにしてとって日限刻限をきってちっともちがえば質を流て」
② 物事を決定する。
今昔(1120頃か)二八「未だ勝負も不切(きら)ぬに」
大乗院寺社雑事記‐文明一一年(1479)七月一日「奈良中地口可之之由」
④ 事柄に、ある基準で区切りをつける。時期や数量を限定する。「百人で合格者を切る」
⑤ ある基準の数量以下になる。割る。「百メートルで十秒を切る」「株価が千円を切る」
⑥ 株式取引や商品の清算取引で、損失勘定になった客が、証拠金の追加をしないので、取引員が手じまいして整理する。〔取引所用語字彙(1917)〕
[三] きわだつような動作をする。
① 勢いのよい、きっぱりした口ぶりや様子などをする。「たんかを切る」「しらを切る」「とんぼを切る」
② 特に、歌舞伎や能で、ある目立つ表情や動作をする。「みえを切る」「面を切る」
③ まっ先にある動作をする。「スタートを切る」
※現代経済を考える(1973)〈伊東光晴〉II「このような体制が確立するためには大学における科学研究が定着し、時代の先端を切らねばならない」
④ テニスや卓球などで、球に回転を与えるように打つ。カットする。
⑤ ハンドルやかじなどで、進む方向を変える。
※燃えつきた地図(1967)〈安部公房〉「ぼくの推理は、車輪を宙に浮かせるほどの急カーブを切っている」
⑥ 手である決まった文字や形を描く。
※幻影の盾(1905)〈夏目漱石〉「ヰリアムは覚えず空に向って十字を切る」
[四] 動詞の連用形に付けて補助動詞として用いる。
① すっかり…し終える。完全にすます。…し尽くす。
※枕(10C終)八二「今宵あしともよしともさだめきりてやみなんかし」
② 十分に…する。ひどく…する。
※平家(13C前)二「たのみきたる内府はかやうにの給ふ」
③ きっぱり…する。
※平家(13C前)二「宰相殿ははや覚(おぼ)しめしきて候」
※浮世草子・世間胸算用(1692)四「当くれの合力はならぬといひ切られ」
④ 途中で…することをやめる。
※日葡辞書(1603‐04)「ヨミ qiru(キル)〈訳〉途中まで読んで先へ進まない」
[2] 〘自ラ下二〙 ⇒きれる(切)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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