切・限(読み)きり

精選版 日本国語大辞典 「切・限」の意味・読み・例文・類語

きり【切・限】

[1] 〘名〙 (動詞「きる(切)」の連用形の名詞化) 切ること。断つこと。限ること。また、そのもの。
段落をつけること。ひとくぎり。きれめ。段落。
浄瑠璃・松風村雨束帯鑑(1707頃)四「つとめのよねは長客の、ひときり半や二きりは、ものの見事にゆるりっと、床の済むまで舞ふて居る」
② 限られた一定の空間。都市の町などと同じ単位の居住空間。
※本福寺跡書(1560頃)「殿原も全人衆も、双方切限に、一切々々の水兵、一艘々々に取乗り取乗り、その戦い〈略〉会稽を雪訖」
③ (「きりが無い」の形で用いることが多い) 限度。際限。かぎり。はて。
※玉塵抄(1563)五「三皇は上代の伏羲神農黄帝なり。皇は大の心ぞ。どこをきりともなくゆうゆうとある心ぞ」
④ 契約の期限。
(イ) 貸借関係などの取引の受け渡し期限。
※俳諧・鷹筑波(1638)二「ながされ人のまた物おもひ しちにをく男をきりにうけもせで〈時之〉」
(ロ) 年季の期限。
※人情本・英対暖語(1838)初「其方(そなた)の年季も此六月が切(キリ)
⑤ 演劇、芸能などで、最後に上演される幕、段、席。
(イ) 舞などの最後の一節。
※古今著聞集(1254)六「光時颯踏急声二反を舞、行則一反を舞。第二の切絶たり」
(ロ) 能楽で、各曲の終末の部分。特に、その中の七五調の文章で、拍子に合う謡(うたい)だけをさす場合が多い。また、一日の演能番組の最後の一番。
※多聞院日記‐天正一六年(1588)二月一三日「於当社能在之。金春沙汰之〈略〉しやうしやうきりにて終了」
(ハ) 歌舞伎、浄瑠璃で、各段あるいは各作品の最後の場、幕。また、一日の上演中、最後の番組にした狂言。大切(おおぎり)。切狂言(きりきょうげん)
※浄瑠璃・心中二枚絵草紙(1706頃)上「初段から切迄、かたりぬかせにゃ堪忍せぬと」
(ニ) 寄席(よせ)で、その日の最後の一席。
※安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉三「夜るは並木亭で一寸中入前をつとめましてすぐに東橋亭の切(キリ)をはなして」
(ホ) 宴席などが終わりになる頃合
洒落本・契国策(1776)南方「ややすぎてもふ切りとみへて、いたこひき出し」
⑥ 短い時間を限ってする売色。また、そういうことをする下等な遊女屋。切見世(きりみせ)。また、その遊女。
※黄表紙・高漫斉行脚日記(1776)中「もう山川は見へさうなもの。ただしきりにしけたかしらぬ」
⑦ 年季を切って奉公する中年以上の下婢(かひ)。きりかか。きりばば。
※浄瑠璃・田村将軍初観音(1714)上「八十に近きまかなひのきりが引手もみつわぐむ」
⑧ 冷麦をいう女房詞
※婦人養草(1689)食類の事「ひやむぎは きりと」
切炬燵(きりごたつ)をいう女房詞。〔日葡辞書(1603‐04)〕
⑩ 刀の異称。
※名語記(1275)六「熊野詣の時、かたなをきりとなづく」
⑪ 歌詞の曲節。曲。
⑫ 「きりあげ(切上)⑤」の略。
⑬ カルタ、トランプ遊びなどの切り札
浮世草子・世間娘容気(1717)三「切のなひかるたに虫持た心地して」
⑭ 碁で、相手の石がつながるのを切断すること。また、そういう手。
※二老人(1908)〈国木田独歩〉上「だって此切断(キリ)は全く私の見落ですもの」
⑮ 「にきり(煮切)」の略。
※すし通(1930)〈永瀬牙之輔〉二八「『煮切り』と云ふのは〈略〉商売人は略して単にキリと云って居る」
[2] 〘副助〙 (「限る」意の名詞から転じたもの。「ぎり」とも。また、促音が入って「っきり」となる場合も多い) 体言またはそれに準ずる語に付いて、それに限る意を表わす。
① 「…かぎり」「…だけ」の意。
※説経節・をくり(御物絵巻)(17C中)一一「てるてのために、ひけやとて、いんぐゎのくるまに、すがりつき、五ちゃうきりこそ、ひかれける」
※当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉八「風がこれっきりで静まればよいが」
② まるまる…ごと全部の意を表わす。
※雑俳・柳多留‐四六(1808)「傾城を根太っ切り買ふ材木屋」
③ (下に打消の語を伴って) 「…しか」の意。
※東京灰燼記(1923)〈大曲駒村〉一七「其災害は実に想像以外と云ふきりない」
[3] 〘接尾〙
① やや厚めに切ったものを数えるのに用いる。切れ。
※宇治拾遺(1221頃)七「干瓜(ほしうり)三きりばかり食ひ切りて」
② 年季などの年数を数えるのに用いる。
※洒落本・やまあらし(1808)二「江津へでいしにやっておきやしたが、あすかア四切(よキリ)の二〆じゃアくわへていても、おさまりゃせん」
③ 「限度とする」「境目とする」の意を表わす。
※曾我物語(南北朝頃)八「この太刀をぬかれければ、四方五段ぎりの虫も、翼もきれおちにければ」
④ (「ぎり」「っきり」とも) 動詞の連用形に付いて、その動作を最大限する意を表わす。…かぎり。
※浮世草子・好色一代女(1686)二「此酒の有切(ありギリ)にあそぶなれば」
⑤ (「っきり」となることが多い) 動詞の連用形に付いて、その動作を長く継続する意を表わす。ずっと…する。
※坊っちゃん(1906)〈夏目漱石〉一一「角屋の丸ぼやの瓦斯(ガス)燈の下を睨めっきりである」
⑥ (「っきり」となることが多い) 動詞などの終止形に付く。
(イ) 単にその動作だけが行なわれることを表わす。…だけ。
※化銀杏(1896)〈泉鏡花〉六「遣(や)って試るです、といふっきりで、取付島も何もない」
(ロ) (「…たっきり」の形で) その状態が継続することを表わす。…したまま。
※死者生者(1916)〈正宗白鳥〉七「其処の主人が肺病で寝たっ切りだったので」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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