加速器研究施設(読み)かそくきけんきゅうしせつ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「加速器研究施設」の意味・わかりやすい解説

加速器研究施設
かそくきけんきゅうしせつ

国立大学法人法に基づいて設置された、大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構KEK(ケック))傘下の国立の研究施設。英語名はAccelerator Laboratoryである。1971年(昭和46)にKEK(当時の名称は高エネルギー物理学研究所)が創設され、その根幹加速器を扱う研究施設として1997年(平成9)に設置された。所在地はKEK本部がある茨城県つくば市。

 加速器研究施設はKEKで利用されるすべての最先端加速器システムの設計、建設、運用を行っている。粒子の集団や粒子のようにふるまう波長の短い波が細い流れとなって並進し互いにはほとんど衝突しないビームの性能の向上を目ざし、素粒子原子核物質、生命などの研究者に研究成果を提供している。また加速器科学と関連技術の研究、設計、開発に取り組んでいる。

 おもな加速器実験施設には、円形の衝突型加速器「KEKB(ケックビー)」(2010年運転終了)、KEKBの後継加速器「SuperKEKB(スーパーケックビー)」、放射光加速器の「フォトンファクトリーPhoton Factory(PFリング)」「PFアドバンストリング(PF-AR)」があり、さらにこれらの加速器に高速の電子と陽電子を入射する、直線型の線形加速器がある。

 KEKB加速器は、1999年から2010年(平成22)まで稼働した。周長3キロメートルの円形トンネル内に二つの貯蔵リングStorage Ring(電子を蓄積する高エネルギーリングと陽電子を蓄積する低エネルギーリング)が並行して設置され、二つのリングが交差する地点(衝突点)を囲んで「Belle(ベル)測定器」が置かれていた。この加速器で電子と陽電子を光速近くまで加速して衝突させ、この際生じる「B中間子」「反B中間子」の崩壊過程を観察した(この実験は測定器の名前から「Belle実験」とよばれる)。Belle実験では、2001年までのデータを用い、小林誠益川敏英(ますかわとしひで)が1973年に予言した「CP対称性の破れ」を実証し(2001年に論文を発表)、二人の2008年ノーベル物理学賞受賞に貢献した。「CP対称性の破れ」の理論は、宇宙誕生後に生まれた物質で現在も残る「物質」と、電気的に反対の性質をもつ「反物質」との間では、壊れやすさに違いがあるというもので、現在の素粒子理論の根幹をなすものとなっている。

 SuperKEKBは、KEKBの後継加速器として、2018年3月に本格始動した。B中間子などの生成能力をKEKBの40倍以上高めたもので、地下11メートル、周長3キロメートルの円形トンネル内に設置され、電子と陽電子を衝突させる。その際、発生する粒子・反粒子のペアを検出して、その違いや謎(なぞ)などを解明する。B中間子の崩壊の模様を観察する「BelleⅡ(ベルツー)測定器」(縦、横、高さ約8メートル、重さ1400トン)の名前から「BelleⅡ実験」とよばれる。世界25か国・地域から750人以上が参加している。こうしたB中間子を扱う実験や施設は、工場のように大量にB中間子などをつくりだすことから「Bファクトリー」ともよばれる。

 放射光加速器のフォトンファクトリー(PFやPF-AR)で利用される放射光は、光速に近い電子が磁石で曲げられた際に、そのエネルギーの一部がX線や紫外線などとして放出される電磁波である。この放射光を物質に照射することで、物質特有の性質などを解明する。PFは25億電子ボルト、PF-ARは65億電子ボルトの電子を利用し、生成された放射光は50近くの実験室に提供されている。

 加速器研究施設では、2025年に国内での完成を目ざして、プロジェクトが動き出した「国際リニアコライダーInternational Linear Collider(ILC)」のための試験加速器ATF(先端加速器試験施設)、STF(超伝導リニアック試験施設)など技術開発も行っている。ILCは、SuperKEKBファクトリーの円形型加速器とは異なり、全長20キロメートル(当初は30キロメートルの施設が計画されたが、20キロメートルでも同様の結果が導き出せることが判明)の直線型の加速器で電子と陽電子を衝突させる。世界最大規模の高エネルギー反応をつくりだすことで、宇宙創成の謎、時間と空間の謎、質量の謎に迫る。

 加速器研究施設では、アメリカのフェルミ国立加速器研究所、スタンフォード線形加速器研究所、コーネル大学、ジェファーソン研究所や、中国科学院高能物理研究所、上海(シャンハイ)放射光、韓国の浦項(ほこう)加速器研究所、台湾光源、インドのラジャ・ラマンナ先端技術センター、CERN(セルン)(ヨーロッパ原子核研究機構)、ドイツ電子シンクロトロン研究所、イタリア国立核物理学研究所、ロシアのブドカ原子核研究所などの加速器研究者と、さまざまな研究協力・交流を展開するなど、世界トップクラスの活動実績を誇っている。

[馬場錬成・玉村 治 2018年7月20日]

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百科事典マイペディア 「加速器研究施設」の意味・わかりやすい解説

加速器研究施設【かそくきけんきゅうしせつ】

大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構の基盤となる施設。高エネルギー加速器に関する研究のほか,大型加速器施設の運転維持業務を担当。周長約3kmの衝突型円形加速器(旧トリスタン)を使ってB中間子・反B中間子対を作り出すBファクトリー(KEKB),先端加速器試験装置(ATF),電子陽電子入射器(LINAC)の三つの加速器を運転しているほか,独立行政法人日本原子力研究開発機構(2005年に日本原子力研究所と核燃料サイクル機構が統合して発足)と共同で,大強度陽子ビームを生成して物質・生命科学,原子核素粒子,ニュートリノ,核変換の実験施設に供給する大強度陽子加速器施設(J-PARC)の建設を東海研究開発センター(茨城県東海村)で進めている。次期電子陽電子衝突型直線加速器(リニアコライダー,ILC)を建設する計画がある。加速器第1から加速器第4までの四つの研究系がある。

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