(読み)こう

精選版 日本国語大辞典 「劫」の意味・読み・例文・類語

こう コフ【劫】

〘名〙 (kalpa の音訳「劫波(こうは)」の略)
① 仏語。きわめて長い時間。一般に、雑阿含経の説くところに従って、天人が方一由旬(四十里)の大石を薄衣で百年に一度払い、石は摩滅しても終わらない長い時間といい、また、方四十里の城にケシを満たして、百年に一度、一粒ずつとり去りケシはなくなっても終わらない長い時間という。なお、劫には小中大の大きさの段階があり、また劫の性質としてそれぞれ二十小劫からなる成(じょう)・住・壊(え)・空の四劫があって、循環すると説かれる。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「こふの変はるまでおとづれ給はぬを」
太平記(14C後)一八「百千劫(コウ)の間に舌を暢(の)べて説く共尽くべからず」 〔無量寿経‐下〕
囲碁で、一目(いちもく)双方で交互に取りうる形のとき、先方に取られたあと、すぐには取り返せない約束のため、他の急所に打って、相手がそれに応じたすきに、一目を取り返すかたちで一目を争うこと。また、その繰り返し。劫争い。
源氏(1001‐14頃)空蝉「碁うちはてて〈略〉このわたりのこうをこそなどいへど」

ごう ゴフ【劫】

〘名〙 ⇒こう(劫)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「劫」の意味・読み・例文・類語

ごう【劫】[漢字項目]

人名用漢字] [音]ゴウ(ゴフ)(慣) コウ(コフ)(呉) キョウ(ケフ)(漢)
〈ゴウ〉
おびやかす。おどす。「劫略
きわめて長い時間。「劫火劫初永劫
〈コウ〉
おびやかす。「劫奪
長い時間。「億劫塵劫じんこう
囲碁で、石の取り方の一。「劫材
難読億劫おっくう

こう〔コフ〕【×劫】

《〈梵〉kalpaの音写「劫波」の略。「ごう」とも》仏語。きわめて長い時間。古代インドにおける時間の単位のうち、最長のもの。
囲碁で、一目を双方で交互に取りうる状態。この場合、一方で取られたあと、すぐ他方で取り返すことのできない約束で一目を争う。

ごう〔ゴフ〕【×劫】

こう(劫)

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「劫」の意味・わかりやすい解説

劫 (こう)

インド古代の巨大な時間の単位。サンスクリットのカルパkalpaの漢訳。1劫の長さは仏典では種々の比喩で説かれている。〈盤石ばんじやく)劫〉の比喩によると,1辺1由旬(ゆじゆん)yojana(約7km)の立方体をした硬い岩を柔らかいカーシ産の綿布で100年に1度ずつ払いつづけ,岩がようやく磨滅しても1劫はまだ終わらない。劫は元来〈期間〉の意味なので,上記の劫以外に,これと長さの異なる種々の劫がある。〈中劫antara-kalpa〉といういい方があるが,それは単に劫というのと同じである。〈成劫(じようこう)〉〈住劫(じゅうこう)〉〈壊劫(えこう)〉〈空劫(くうこう)〉は宇宙の生滅の1サイクルを構成するが,それぞれ20中劫からなる。〈大劫〉は成住壊空の1サイクル,すなわち80中劫からなる。〈64転大劫〉は宇宙の大規模な破壊(風災)を1回含む64大劫の1サイクルをいう。3阿僧祇(あそうぎ)劫は3×1059中劫のことで,仏の修行の期間を示す。過去荘厳劫,現在賢(げん)劫,未来星宿劫は長さ各1住劫で1回限り現れる。ヒンドゥー教では1劫は43億2千万年である。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「劫」の意味・わかりやすい解説


ごう

サンスクリット語カルパkalpaの音写「劫簸(ごうは)」の略。仏教やインド思想で、通常の年月日時では算出することのできないとてつもなく長い時間をいう。そのことを仏典では、芥子(けし)劫といわれる譬喩(ひゆ)で説明している。それは、1辺が1ヨージャナ(由旬(ゆじゅん)。約7キロメートル)の立方体の大城に芥子粒を満たし、長寿の人が100年に一度きてそれを1粒ずつ取り出してついに芥子粒がなくなっても、なお劫は尽きないというのである。「未来永劫(みらいえいごう)」とはこのような長大な時間をさす。刹那(せつな)の反対語。

[高橋 壯]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「劫」の意味・わかりやすい解説


こう

サンスクリット語 kalpaの音写。劫波,劫簸などとも記される。非常に長い時間という意味。上下四方 40里の城いっぱいにけしを満たし,3年ごとに1粒ずつけしを取除いて,すっかりけしがなくなってしまう時間を劫と説明したのを芥子 (けし) 劫という。さらに上下四方 40里の岩を,天女が天から3年ごとに下ってきて,羽衣でひと触れしているうちについにその岩がすりへってなくなってしまうのを磐石劫という。また,芥子劫,磐石劫を小劫とし,上下四方 80里の城と岩にたとえる場合を中劫,さらに 120里にたとえるのを大劫とする場合がある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

青天の霹靂

《陸游「九月四日鶏未鳴起作」から。晴れ渡った空に突然起こる雷の意》急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃。[補説]「晴天の霹靂」と書くのは誤り。[類語]突発的・発作的・反射的・突然・ひょっこり・...

青天の霹靂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android