北京原人(読み)ペキンげんじん(英語表記)Peking man

翻訳|Peking man

精選版 日本国語大辞典 「北京原人」の意味・読み・例文・類語

ペキン‐げんじん【北京原人】

〘名〙 化石人類一種。一九二七年北京郊外の周口店発見され、二〇~五〇万年前のものと推定。脳容量は九〇〇~一二〇〇cc。石器を作製し火を使用した跡がある。現在の正式学名はホモ‐エレクトゥス‐ペキネンシス。旧学名、シナントロプス‐ペキネンシス。北京人類。

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デジタル大辞泉 「北京原人」の意味・読み・例文・類語

ペキン‐げんじん【京原人】

中国北京郊外、周口店の石灰岩洞穴から発見された化石人類更新世中期、50万~20万年前の生息と推定される。原始的な石器を用い、火を使った。ホモエレクトゥス‐ペキネンシス。旧称、シナントロプスペキネンシス
[類語]ひと人間人類現生人類原始人新人旧人原人ジャワ原人直立猿人猿人ピテカントロプスホモサピエンス人倫万物の霊長考えるあし米の虫人物人士じんもの

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「北京原人」の意味・わかりやすい解説

北京原人
ぺきんげんじん
Peking man

中国、北京周口店出土の原人段階の化石人類の通称。学名はホモ・エレクトゥス・ペキネンシスHomo erectus pekinensis。シナントロプス・ペキネンシスはその旧学名。人類学史上一般に、重要な化石標本が発見されても、多くの問題点をはらみ、すんなりと承認されることは少ないが、北京原人は多くの学者の期待を受けながら発見された数少ない例といってよい。

 1926年、中国の地質調査所所長として北京に滞在していたスウェーデンの地質学者アンダーソンJ. G. Andersonは、周口店において人類らしいものの歯を発見したと発表した。27年末から、カナダの解剖学者で北京協和医学院教授であったブラックDavid Blackが、ロックフェラー財団の援助のもとに発掘調査を開始した。その際ブラックは、先に発見されていた大臼歯(きゅうし)の持ち主をシナントロプス・ペキネンシスと命名した。29年末に中国の人類学者斐文中(はいぶんちゅう)が頭骨第1号を発見し、以後、頭骨6点を含む約40体分の原人骨格と149本の遊離した歯が発掘された。ブラックが急死した翌年の35年、ドイツ出身の人類学・解剖学の泰斗ワイデンライヒF.Weidenreichが彼の後任として迎えられた。37年、日中戦争が勃発(ぼっぱつ)して発掘調査が不便になり、41年、ついに戦火を避けて全標本をアメリカ合衆国に発送したが、その翌日に太平洋戦争が勃発し、標本のすべてが紛失してしまい、その行方は不明のままである。しかし、ワイデンライヒによる優れた模型標本が残されていたことは不幸中の幸いであった。大戦後に再開された発掘では、頭骨片や歯などの数点が発見されたにすぎない。

 標本が発見されたのは石灰洞穴内の堆積(たいせき)物中からであるが、奇妙なことに、その大部分は頭骨と歯であり、四肢骨はわずかである。頭蓋(とうがい)容量は約900~1200ミリリットルで、眼窩(がんか)上隆起の発達が著しい。上顎(じょうがく)切歯の舌側面にみられるシャベル状のくぼみはモンゴロイド一般にみられる特徴であるため、北京原人をモンゴロイドの直系の祖先とする学者もいる。もう一つの代表的原人であるピテカントロプス(ジャワ原人)より進歩的とみられている。木炭や灰が伴出するので、火を使用したと考えられる。石器が随伴して発見されているが、東アジアに広く分布するチョッパーチョッピング・トゥールとよばれるものである。生存した年代は第四紀更新世(洪積世)中期、約50万~20万年前と推定されている。

[香原志勢]

『松崎寿和著『北京原人――世紀の発見と失踪の謎』(1973・学生社)』『二宮淳一郎著『北京原人――その発見と失踪』(1991・新日本出版社・新日本新書)』

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「北京原人」の解説

北京原人(ペキンげんじん)
Sinanthropus pekinensis

北京の南西約50km,周口店の竜骨山から発見された原人化石に与えられた名。今では通常,ジャワ原人などとともに,ホモ・エレクトゥスに分類される。1923年にO.ズダンスキーらにより歯が1本発見され,27年から組織だった発掘が遂行され,37年までに部分頭蓋骨(とうがいこつ)5個を含む多くの原人化石が発見された。これらは形態学者F.ワイデンライヒによって詳細に研究され,精工な模型が残されたが,第二次世界大戦中に実物化石は行方不明になったまま現在に至っている。戦後の周口店における発掘により,若干の追加標本が得られている。年代は約50万~30万年前とされ,原人としては年代が若い。同層準中に厚い灰性の堆積層があるため,原人の火の使用の証拠としてよく言及されるが,自然の作用によるとの説もある。約80万~20万年前の中国の他の遺跡からも北京原人と同様な化石が発見されている。

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改訂新版 世界大百科事典 「北京原人」の意味・わかりやすい解説

北京原人 (ペキンげんじん)
Peking man

中国,北京郊外,周口店遺跡の第1地点(中国では〈猿人洞〉という)で発掘され,カナダのブラックD.Blackがシナントロプス・ペキネンシスSinanthropus pekinensisと命名した原人の通称。今日では,ジャワ原人とともに,ホモ・エレクトスHomo erectusに含まれる。第2次世界大戦前に発見されていた化石は,若干の歯を除いて行方不明である。
化石人類 →周口店
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知恵蔵 「北京原人」の解説

北京原人

ジャワ原人」のページをご覧ください。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「北京原人」の解説

北京原人
ペキンげんじん

シナントロプス・ペキネンシスとも。中国語では北京猿人という。北京郊外周口店の石灰岩洞で,主として1921~37年に発見された原人化石。年代は約50万~25万年前。40体分をこえる骨や歯が出土したが,そのほとんどが太平洋戦争中に紛失した。幸いF.ワイデンライヒらによる詳細な記載と正確な石膏模型が残されている。戦後の発掘で若干の化石があらたに発見された。

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旺文社世界史事典 三訂版 「北京原人」の解説

北京原人
ペキンげんじん
Sinan-thropus-Pekinensis

北京の南西,周口店の竜骨山から発掘された化石人類。「シナントロプス−ペキネンシス」
1927年にD.ブラックにより命名された。約50万〜30万年前の人類で,ジャワ原人(ピテカントロプス−エレクトゥス)よりやや進化したものとされている。1928年,石器や骨器が発見されて道具の使用が判明し,木炭や灰の痕跡からすでに火を使っていたこともわかった。

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旺文社日本史事典 三訂版 「北京原人」の解説

北京原人
ペキンげんじん

中国,北京の南西,周口店の石灰岩洞窟より発見された旧石器時代人
1927年出土した大臼歯を人と類人猿の中間型とし,カナダの学者ブラックが「シナントロプス‐ペキネンシス」と命名。打製石器・骨角器を用い,火を使用した。更新世中期に比定され,その後も多くの人骨が出土した。

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百科事典マイペディア 「北京原人」の意味・わかりやすい解説

北京原人【ペキンげんじん】

シナントロプス

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「北京原人」の意味・わかりやすい解説

北京原人
ペキンげんじん

シナントロプス」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の北京原人の言及

【シナントロプス】より

…中国の北京市南西郊にある周口店遺跡の第1地点(中国では猿人洞という)で発見された化石人類。北京原人ともいう。周口店の遺跡はスウェーデンの地質学者J.G.アンダーソンによって発見され,1927年からロックフェラー財団の援助で発掘がおこなわれた。…

【周口店遺跡】より

… これらの遺跡群は,1918年にJ.G.アンダーソンが注目して以来,今日に至るまで,解放前においては数多くの欧米の研究者が,解放後1949年以後には中国科学院古脊椎動物・古人類研究所が中心となって発掘調査を進めてきている。その間,27年に,D.ブラックが第1地点から発見されたヒトの臼歯に,シナントロプス・ペキネンシス(北京原人)と命名した。 第1地点の洞窟は,東西140m,南北40mの規模をもち,その中に40m以上の厚さの堆積物があり,おおよそ50万~20万年前の30万年間のものである。…

※「北京原人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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