北前船(読み)きたまえぶね

精選版 日本国語大辞典 「北前船」の意味・読み・例文・類語

きたまえ‐ぶね きたまへ‥【北前船】

〘名〙
① 江戸初期から中期にかけて日本海海運の主力となって活躍した廻船の北国船の上方での呼称。初期にすでに千石積以上の大船があり、船首形状がまるく、舷側に垣立のない特異な船型で、順風時以外は櫂で漕ぐという中世的廻船の性格をもつものであったため、多数の乗組を必要とし、江戸中期以降は帆走専用の経済的な弁才船に圧倒されて滅びた。〔和漢船用集(1766)〕
江戸時代、弁才船を改良した船。天保期(一八三〇‐四四)以後従来の弁才船より船首のそりを大きく淦間(あかま)の幅を拡大するなど、船体寸法の割に多量の積荷ができる船型に変えたもので、これを上方系の弁才船と区別して称した。
※大和形船製造寸法書(1902)七「北前船と檜垣・樽船とは一見して之を識別し得べし」
③ 江戸時代から明治中期にかけて北海道貿易に活躍した日本海地域の廻船を上方でいう。特定の船型を意味しない。また、瀬戸内・九州地方の買積船で北国貿易に従事するものを称する場合もある。
※東西船路名所記(1838)諸国之船大坂着場所「北国路北前船 難波ばし」

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デジタル大辞泉 「北前船」の意味・読み・例文・類語

きたまえ‐ぶね〔きたまへ‐〕【北前船】

近世初期から明治時代にかけて、日本海海運で活躍した北国廻船ほっこくかいせん、またそれに使われた北国船ほっこくぶねの上方での呼称。近世の中ごろから用いられるようになった、改良型の弁財船をもいう。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「北前船」の意味・わかりやすい解説

北前船
きたまえぶね

江戸時代から明治時代にかけて、西廻(にしまわり)航路に就航した廻船(かいせん)の上方(かみがた)での呼称。北前船は、大坂が北海道産品の集散市場として確立する江戸時代中期から隆盛に向かい、順風でなくても帆走可能な弁才船(べざいせん/べんざいぶね)の大型化を図りつつ発達した。西南日本において棉(わた)、藍(あい)、ミカンなどの商品作物の栽培が盛んになり、北海道産魚肥、とくに鰊締粕(にしんしめかす)の需要が増大する幕末から明治時代初頭にかけて最盛期を迎えた。最盛期の北前船は大型化してほぼ2000石積みにも及び、買積み船が主流をなし、船主は単に海運業者であるばかりではなく、隔地間の価格差に依拠した海の商人でもあった。米、漁場用品、日用雑貨などを西廻各地で仕入れて北海道で売り、かわりに水産製品を買い付けて上方に運び、売りさばいた。

[小林真人]

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百科事典マイペディア 「北前船」の意味・わかりやすい解説

北前船【きたまえぶね】

江戸中期から明治の初めにかけて北海道と大坂(大阪)を結んで西廻航路を往来した廻船。通称千石(せんごく)船で,弁才(べんざい)船・どんぐり船とも呼ばれた。西国で米・塩・酒などを仕入れて,北国で売り,北海道や東北からは昆布やニシンなどを買い入れて日本海から下関を回って瀬戸内海諸島や大坂へ運んで売った。船主が荷主を兼ねた買積みであった。
→関連項目廻(回)船銭屋五兵衛西廻海運福良津放生津宮腰

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改訂新版 世界大百科事典 「北前船」の意味・わかりやすい解説

北前船 (きたまえぶね)

江戸中期から明治時代にかけて,北海道と大阪を結んで西回り航路を往来した買積船。その船型は通称千石船で,弁財船,どんぐり船とも呼ばれた。当初は200石積みから500石積みまであったが,明治時代になると2000石積みクラスのものも現れた。積荷は上り荷として北海道産の胴ニシン・羽ニシン・身欠きニシンサケ・昆布などの海産物,下り荷は米・塩・木綿・古着・酒などであった。船主が荷主を兼ねた買積みであった。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「北前船」の意味・わかりやすい解説

北前船
きたまえぶね

江戸時代,寛永年間 (1624~44) に日本海,瀬戸内海を経て大坂にいたる西廻海運に就航した廻船。北陸では「べんざい」 (弁財船) と称した。 18世紀末には航路は蝦夷地まで延び,北陸,奥羽,松前の米穀や海産物を買入れて下関海峡を経て瀬戸内海に出て大坂にいたり,ここで積荷を売りさばいては酒,塩,雑貨を仕入れ,北国で売払って巨利を得た。買積商内 (かいづみあきない) と呼ばれるように,運賃積によらず船主が売買問屋を兼ねた。近江商人や北陸筋の商人が船主であった。加賀の銭屋五兵衛は有名。幕末から明治初期が最盛期で,中期以降は,汽船や内陸鉄道網の発達によって衰微していった。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「北前船」の解説

北前船
きたまえぶね

近世後期~明治前期に,おもに日本海航路で活動した買積廻船集団。近世前期に松前場所に進出した近江商人に雇用され,同地と越前国敦賀を結ぶ航路を往復した運賃積の荷所船(にどこぶね)にかわり,宝暦~天明期に荷所船から独立した買積廻船主が越前・加賀・佐渡などに出現し,大坂と松前を直接結ぶ取引を始めたもの。松前・日本海・瀬戸内・上方の地域市場を結び,その間の商品価格差でもうける買積形態は,領主的流通を崩しながら全国を結びつけ,近代国民市場の形成を促した。明治30年代の鉄道網の形成により衰退し,その歴史的役割を終えた。

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旺文社日本史事典 三訂版 「北前船」の解説

北前船
きたまえぶね

江戸時代の廻船の一つ
北国廻船・北国船ともいう。近江商人などが出資して,越前・加賀などの船を用いて,西廻り航路により松前の昆布・鰊 (にしん) ,北国の米を大坂へ,関西の塩・酒などを北国に運んだ。江戸中期から明治初年にかけて栄えたが,汽船の発達で衰えた。

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防府市歴史用語集 「北前船」の解説

北前船

江戸時代に北陸や東北地方西部の港から日本海を通り、関門海峡から瀬戸内海を通って、兵庫や大阪の港に行った大型の商船です。途中、各地の港を訪れ、商売をしながら移動します。

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世界大百科事典(旧版)内の北前船の言及

【交通】より

…大坂と江戸の間の貨物輸送には,菱垣(ひがき)廻船樽廻船が活躍した。これらの船が輸送業者(廻船問屋)による定期船であったのに対し,北陸や東北から大坂までやってくる北前船(きたまえぶね)は,商人みずからが船主であった。また河村瑞賢が東北から江戸に至る東廻航路,西廻航路の整備,開拓を行った。…

【水運】より

…近江商人衆の調達船荷所船は越前敦賀を拠点に北国・松前方面に進出し活躍した。しかし,宝暦~天明期(1751‐89)の近江商人の後退にともなって北国船は大坂と蝦夷地を結ぶ買積船の北前船として活躍し明治中期にわたって北前船時代を築いた。一方,大坂・瀬戸内海方面の千石船の弁財船は西国各地はもとより日本海側,太平洋側にも進出し幕府・諸藩の米や銅などの輸送に従事した。…

【荷船】より

…一方,廻船は,航路の開拓によって,貨物の遠方輸送の重要な担い手となったが,とりわけ江戸時代における江戸~大坂間の菱垣(ひがき)廻船,樽廻船,さらに河村瑞賢によって開拓された,日本海各地の生産品を津軽海峡をへて江戸に運ぶ東廻航路,下関海峡をへて大坂・江戸にいたる西廻航路がよく知られる。また北前船(きたまえぶね)は,日本海側でベンザイ船,ヤマト船,ドングリ船などと呼ばれるが,近世中期から明治時代にかけて西廻航路に就航した。当初,北国の余剰米を大坂や江戸に運ぶ目的で開始されたが,後に蝦夷地の開発が進むにつれて,ますます発展した。…

【和船】より

…現存史料による限り,〈百済船(くだらぶね)〉〈唐船(からふね)〉〈宋船〉〈暹羅船(シヤムせん)〉〈南蛮船〉などの対語としての〈倭船〉ないし〈和船〉なる文字は,少なくとも幕末前には見当たらない。では,日本の船のことは何と記しているかというと,〈遣唐使船〉〈遣明船〉〈朱印船〉〈安宅船(あたけぶね)〉,〈関船(せきぶね)〉(のち船型呼称となる),〈御座船〉〈荷船〉〈樽廻船〉〈くらわんか舟〉など用途による名称,〈茶屋船〉〈末吉船〉〈末次船〉〈荒木船〉など所有者名を冠するもの,〈伊勢船〉〈北国船(ほつこくぶね)〉〈北前船(きたまえぶね)〉〈高瀬舟〉など,地名を冠してはいるが実は船型を表すもの,〈二形船(ふたなりぶね)〉,〈ベザイ船〉(弁財船とも書かれる),〈菱垣廻船〉〈早船(小型のものは小早(こばや))〉など船型や艤装(ぎそう)を指す呼称,〈千石船〉(ベザイ船の俗称),〈三十石船〉など本来船の大きさ(積石数(つみこくすう)。現用の載貨重量トン)を表した呼称が船型名称のごとく使われるようになったものなど,個々の船種船型名称が記されているのが一般である。…

※「北前船」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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