反・返・帰・還(読み)かえる

精選版 日本国語大辞典 「反・返・帰・還」の意味・読み・例文・類語

かえ・る かへる【反・返・帰・還】

〘自ラ五(四)〙
[一] (反・返) 事物事柄の位置が逆になる。また、物事の状態が変わる。
① ひるがえって裏が表側に出る。
万葉(8C後)一〇・二〇六三「天の河霧立ち上るたなばたの雲の衣の飄(かへる)袖かも」
更級日記(1059頃)「雲かへる風はげしううちふきて」
② ひっくりかえって上が下側になる。また、横倒しになる。くつがえる。
※万葉(8C後)四・五五七「大船を漕ぎのまにまに磐(いは)に触れ覆(かへら)ば覆(かへれ)妹によりては」
※宇治拾遺(1221頃)一〇「山もひびきて地もかへりぬべし」
③ 物の形や質などが変わる。
書紀(720)皇極二年八月(岩崎本訓)「茨 田池の水変(カヘリ)て藍の汁の如く」
染色などがうすくなる。色があせる。
※後撰(951‐953頃)恋四・八五二「菊の花うつる心をおく霜にかへりぬべくもおもほゆる哉〈よみ人しらず〉」
※枕(10C終)三六「うす色の、裏いと濃くて、上はすこしかへりたるならずは」
⑤ 鷹が成長して、羽の斑点のさまが変わる。〔藻塩草(1513頃)〕
⑥ 反切(はんせつ)によって漢字の音があらわされる。
※玉塵抄(1563)六「嬴ここのかえしはりなり。るいは又りとかえるぞ」
[二] (返・帰・還) 事物や事柄が、もとの場所、状態などにもどる。
① もとの場所や持主にもどる。
※万葉(8C後)五・八〇一「ひさかたの天路は遠しなほなほに家に可弊利(カヘリ)て業(なり)をしまさに」
源氏(1001‐14頃)明石「年経つるとまやも荒れてうき波のかへる方にや身をたぐへまし」
② もとの状態にもどる。復元する。
古今(905‐914)雑上・八九六「さかさまに年もゆかなんとりもあへず過ぐるよはひやともにかへると〈よみ人しらず〉」
※源氏(1001‐14頃)若菜上「若々しくいにしへにかへりて語らひ給ふ」
③ 特に、本来そうあるべきところ、状態などにもどる。
無名抄(1211頃)「歌のさま世々によみ古されにける事を知りて、更に古風にかへりて幽玄の体を学ぶ事のいで来る也」
④ まわって、もとにもどる。一年がめぐって、季節がまた新しくはじまる。
※万葉(8C後)一七・三九七九「あらたまの年可敝流(カヘル)まで相見ねば心もしのに思ほゆるかも」
⑤ 野球で、走者が、各塁を回り、本塁にもどって得点になる。生還する。
※日本野球史(1929)〈国民新聞社運動部〉忍苦の一高又も早慶に敗る「河野飛球が敵の虚に落て泉谷は還(カヘ)った」
[三] (動詞連用形に付けて補助動詞的に用いる) 上の動詞の表わす動作、状態が繰り返されるさま、また、はなはだしいさまを表わす。繰り返し…する。はなはだしく…する。すっかり…する。
※万葉(8C後)四・六〇三「思ふにし死(しに)するものにあらませば千たびそわれは死に変(かへら)まし」
※源氏(1001‐14頃)桐壺「はかばかしうものたまはせやらず、むせかへらせ給ひつつ」

かえり かへり【反・返・帰・還】

[1] 〘名〙 (動詞「かえる」の連用形の名詞化)
[一] (反)
① ひっくりかえって上が下側になること。裏がえること。→かえりを打つ
② しかえし。反発。→かえりを食うかえりを食わす
腰刀打刀の鞘(さや)につける折金(おりがね)。反角(かえりづの)
[二] (返・帰・還)
① もと居た場所や今来た方向へもどること。また、帰る途中。帰る時。
※万葉(8C後)一七・三九七八「近くあらば 加敝利(カヘリ)にだにも 打ち行きて」
※浄瑠璃・夏祭浪花鑑(1745)一「道中八日のお隙入(ひまいり)、お帰りも夫れ程延びる」
② 返事。また、返歌。かえし。
※竹取(9C末‐10C初)「御かへりさすがににくからずきこえかはし給て」
③ 漢文を訓読するとき、前にもどって読むことを示す記号。返り点。
[2] 〘接尾〙 数や、数の不定を表わす和語につけて、回数を表わす。たび。回。度。
※古今(905‐914)仮名序「いますべらぎの天の下しろしめすこと、四つのとき、ここのかへりになんなりぬる」
※源氏(1001‐14頃)若紫「ふたかへりばかりうたひたるに」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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