家庭医学館 の解説
こうしんれつしんがくこうがいれつこうがいれつ【口唇裂/唇顎口蓋裂/口蓋裂 Cleft Lip / Cheilognathopalatoschisis / Cleft Palate】
上くちびるだけが裂けているものを口唇裂といい、くちびるの赤唇部から皮膚にかけて部分的に裂ける不完全唇裂(ふかんぜんしんれつ)と、外鼻孔内(がいびこうない)まで裂ける完全唇裂(かんぜんしんれつ)があります。
裂け目が上くちびるだけでなく、歯槽部(しそうぶ)(歯が生える部分)におよんだものを唇顎裂(しんがくれつ)、さらに上あごの奥の口蓋(こうがい)まで裂けたものを唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)といいます。上あごの奥の口蓋だけ裂けているのは口蓋裂といいます。
いずれも顔面にみられる先天異常(裂奇形)で、多くは片側性で左側に好発しますが、両側性の場合もあります。日本では唇顎口蓋裂は、出生500人に1人の割合で発生し、外国の発生に比べて高率です。両親のいずれかにこの異常がある場合は、子どもの発生率はさらに高くなります。
[原因]
口唇は、母親の胎内で胎生4~7週に、口蓋は7~12週に形成されますが、各部分が予定どおり癒合(ゆごう)しなかった場合に、裂け目が残ります。はっきりした原因はわかっていませんが、多数の遺伝子、環境因子の相互作用によって発生すると考えられています。環境因子としては、母親の精神安定剤、ホルモン剤、抗てんかん薬などの使用のほか、胎児の異常体位、風疹(ふうしん)、水痘(すいとう)、麻疹(ましん)などのウイルスの関与などがいわれています。
[症状]
顔の中心部の病気のため、非常に目立ち、子ども自身に加えて、両親や周囲の精神的ストレスが強いものです。また、新生児の哺乳(ほにゅう)に障害が出たり、成長とともに咀嚼(そしゃく)・嚥下(えんげ)・構音(こうおん)などの障害がおこります。
口蓋裂の場合の発音は、開放性鼻声(かいほうせいびせい)(音がもれ、鼻声で聞き取りにくい)が特徴で、スムースな会話ができず、対人関係が消極的になります。またアデノイド、扁桃肥大(へんとうひだい)などがみられ、のどや鼻などの上気道感染をおこしやすく、中耳炎(ちゅうじえん)や難聴になる危険もあります。
あまり早期に手術をすると、上あごの成長発育が悪くなり、歯並びの乱れや反対咬合(はんたいこうごう)(うけくち)になり、かみ合わせに問題が出ます。
[治療]
口唇裂の手術は生後3~5か月で体重5~6キロの時期に行ない、口蓋裂の手術は1歳2か月~1歳6か月ころに行ないます。手術時期を急いでもよい結果は得られません。
口蓋裂に対しては吸飲力(きゅういんりょく)(吸う力)を与え、あごの成長発育を助けることを目的に、ホッツ床(しょう)と呼ばれる口蓋床が、出生直後より口蓋裂の手術直前まで用いられます。また、口唇・口蓋形成手術後は、二次的に鼻口腔瘻閉鎖(びこうくうろうへいさ)手術、スピーチエイド装着、咽頭弁移植(いんとうべんいしょく)手術などのほか、歯列矯正(しれつきょうせい)や歯科補綴(しかほてつ)(義歯やブリッジ)などの歯科的治療が必要です。ル・フォー型上顎骨(じょうがくこつ)骨切り術で上あごを前方へ出したり、下顎枝矢状分割骨切り術で下あごを後退させる手術的顎矯正治療も行なわれます。
このように口腔外科、歯科、形成外科などで、成長発育が完了するまでの一貫治療が行なわれます。