古銭(泉)学(読み)こせんがく(英語表記)numismatics

改訂新版 世界大百科事典 「古銭(泉)学」の意味・わかりやすい解説

古銭(泉)学 (こせんがく)
numismatics

古代から近代にいたるまでの貨幣メダルを取り扱う学問。メダルとは記念牌(はい)や徽章(きしよう)の類で,ある事件や人物を記念して作られたもの。古銭学はこれらの形や大きさ,銘文意匠,成分の金属,機能,芸術的価値などを研究の対象とする。とくに貨幣では,その単位や重量,それを支配している理論や法則,異なったグループ間の相互関係などが問題となる。

 古銭学は歴史学,神話学,地理学,美術史学などの補助的役割を果たす。たとえば,古銭はそれに施されている銘文や有名な支配者の肖像などによって,遺跡の年代や王朝系譜を明らかにする。またギリシアローマの場合のように,神話や文学の復元に役だつこともある。古代の町の正確な位置,そこに住んでいた民族の種類なども,古銭学的な証拠によってわかることが多い。さらにギリシア・ローマの貨幣に表された各種の肖像や建築,中世のイタリア貨幣に見られる絵画的な手法は,それぞれ当時の美術を理解するうえに重要な手がかりとなる。組織的な学問としての古銭学が生まれたのは,割合に新しい。ギリシアの貨幣は最初地理学的に,ついで年代学的に,ローマの貨幣は地理学と関係なく,もっぱら年代学的に取り扱われた。ヨーロッパの中世・近世の貨幣とオリエントの貨幣は,いずれもギリシアの例のように研究されてきたが,それほど組織だってはいない。オリエントの貨幣は,古代のペルシアアラビア,近世のペルシア,インド,中国ならびに極東の貨幣に大別される。中国およびその影響下にある極東諸国の貨幣は,地名,重量,年号のいずれかをしるすのがふつうで,造形美術にはほとんど関係ないが,書道の方面には大いに参考となる。古銭学の研究には,系統だったコルプス(集成)を必要とする。ヨーロッパでは大英博物館のそれがとくに名高く,日本では日本銀行貨幣標本室のもの(旧銭幣館蔵)が代表的である。
貨幣
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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