土着型社会・流動型社会(読み)どちゃくがたしゃかいりゅうどうがたしゃかい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「土着型社会・流動型社会」の意味・わかりやすい解説

土着型社会・流動型社会
どちゃくがたしゃかいりゅうどうがたしゃかい

社会学者鈴木広(ひろし)の提起した概念。日本の地域社会は従来、都市と農村に二分されてきたが、高度経済成長に伴う激しい人口流動により、都市、農村のいずれにもこの二分法では整理の困難な多様な変容がおきた。その解明のために提起された概念で、土着型社会は、そこに長期定着し、さらに今後も定着を続ける者、つまり土着者の構成する地域社会をさし、逆に定着性に乏しい住民よりなる地域社会が流動型社会である。住民が土着者であれば生活行動の定型反復の累積によって安定的生活構造が続き、それを包む社会構造も安定、持続、反復して、地域の社会統合が維持される。反対に、住民が絶えず流動する地域では、社会構造はつねに振動、変化し、社会統合の溶解欠如の状態が続く。この相違に対応して、土着型社会では住民は地域の外部には閉鎖的、内部には相互主義的意識を抱くが、流動型社会の意識は開放的自己中心主義となり、地域生活の必要要件に対する要求水準も、前者では現実の充足水準と一致し、後者ではそれと乖離(かいり)し、現実の水準に不満を抱きがちである。

 両社会の概念内容は以上のように規定されるが、ただ現実には、全住民が土着者か流動者かのいずれか一方ということはなく、両者混合程度経過様式により、また、流動者も今後は定着を望むか否かによってさまざまの変異が現れている。しかしそれは、以上に述べた二つの型の社会を概念的に設定し、それを基軸とすれば整理分析が容易となる。

中村八朗

『鈴木広編『コミュニティ・モラールと社会移動の研究』(1978・アカデミア出版会)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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