地代(ちだい)(読み)ちだい(英語表記)ground rent 英語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「地代(ちだい)」の意味・わかりやすい解説

地代(ちだい)
ちだい
ground rent 英語
rente foncière フランス語
Grundrente ドイツ語

土地を使用するについて支払われる賃借料をいうが、地代の概念規定はかならずしも統一されているわけではない。日本の現在の法制では、民法上地代とよばれるのは地上権の場合で、賃借権の場合には賃金または借賃といい、永小作権の場合には小作料という。経済学的には、地代を土地用益の価格ととらえ、土地の限界生産力の価値に等しいとする学説もあるが、普通は地代は「土地所有者が経済的に自己を実現する形態」とされ、封建地代資本制地代という二つの地代範疇(はんちゅう)に分けられる。

[常盤政治]

封建地代

封建地代とは、封建社会の領主が農民(農奴、隷農)から収取する地代で、労働、生産物、貨幣の形態をとる。労働地代は主として封建制の初期にみられ、領主直営地で農奴が行う賦役である。生産物地代は隷農の納める物納地代であり、貨幣地代は物納部分を貨幣化して納める金納地代で、封建地代解体の形態をなす。これら三つの形態は、封建的支配の強弱や商品貨幣経済の発達の程度に照応しているが、いずれの形態にせよ、封建地代の本質は、地代が剰余価値または剰余労働の唯一の支配的で正常な形態である点にある。そこでは、利潤範疇は成立せず、萌芽(ほうが)的「利潤」は地代の高さに規定される。

[常盤政治]

資本制地代

資本制地代は平均利潤以上の超過分であるから、その大きさは利潤の高さに依存する。地代が「利潤」を規定するのではなく、利潤によって地代が規定される点で、封建地代と決定的に異なる。資本制地代は差額地代と絶対地代という二つの基本形態からなる。差額地代はJ・アンダーソンによって発見され、D・リカードによって「科学的に定式化」されたといわれているが、その成立の根拠は次のごとくである。

[常盤政治]

差額地代の一般的概念

独占されうる自然力」を基礎として成立する超過利潤は、資本の生産条件を均等化する競争によってはなくならない。そこで資本は、この超過利潤を「独占されうる自然力」の所有者に、競争を通じて帰属させることによって、利潤率均等化法則を貫徹させる。このようにして地代に転化する超過利潤が差額地代である。したがって、これは、土地生産物部門だけでなく、およそ「独占されうる自然力」の利用によって超過利潤が成立するところにはすべて発生する。たとえば、蒸気機関使用の大多数の工場製品の生産価格(一般的生産価格)が115(100〈費用価格〉+15〈平均利潤〉)であるとする。簡単化のために費用価格=充用資本総額とすれば、平均利潤率は15%である。落流を利用する工場の費用価格は90ですむとしよう。しかし、製品は115という一般的生産価格で売られるから、落流利用工場の利潤は25(115-90)である。当該工場にとって平均利潤は13.5(90×15%)だから、11.5だけの超過利潤が得られる。この超過利潤は、落流利用工場の個別的生産価格(103.5)と一般的生産価格(115)との差にほかならないが、落流という「独占されうる一自然力」を基礎として発生したものであるから、資本の競争を通じて地代に転化する。これが差額地代である。だから、差額地代は「つねに、独占された自然力を自由にしている個別資本の個別的生産価格と、問題の生産部門一般に投下された資本の一般的生産価格との差から発生」し、商品の一般的生産価格のなかに規定的に入り込むのではなく、一般的生産価格の成立を前提としている。

 ところで、蒸気機関使用工場の個別的生産価格が一般的生産価格となるのはなぜか。工場の圧倒的多数が蒸気機関で運転されるという前提によるものであろうか。ここに一般的生産価格規定は「平均原理」によるのか「限界原理」に基づくのかという問題がある。大内力(おおうちつとむ)(1918―2009)は、「落流」の例は限界原理とみても平均原理とみても差し支えなく、「平均原理と限界原理という対立的理解そのものが問題」で、前掲の例とは逆に、落流利用工場が圧倒的に多くても、社会的需要を満たすためにどうしても蒸気工場の生産物が必要であるならば、「再生産のために必要な労働量は、やはり115という市場価値を結果するしかない」といい、日高普(ひろし)(1923―2006)は、さらに推し進めて「優等条件の自然的制限性にもとづく超過利潤が差額地代であるということこそ『差額地代の一般的概念』なので」あり、「その制限性がたんに優等地の制限性である場合に第一形態が、そして最劣等地を含めた優等投資場面の制限性である場合には第二形態が成立する、という筋道のうえで、はじめて差額地代の一般的概念も理解できる」としている。

[常盤政治]

差額地代第一形態

土地を不可欠の生産用具とする本来的農業において、豊度の異なる同一面積の土地に投下された等額の資本は相異なる結果をもたらす。たとえば50シリングの資本がA、B、C、Dというそれぞれ相異なる豊度の土地1エーカーずつに投下され、小麦収量はそれぞれ1、2、3、4クォーター、計10クォーターで社会の小麦の全需要を満たすことができるとし、資本の一般的利潤率(平均利潤率)を20%とすればA地の利潤は10シリング、B地=70シリング、C地=130シリング、D地=190シリングとなる。

 社会の小麦需要を満たすためにA地の耕作も必要である限り、A地に投下された資本にも平均利潤がもたらされなければならない(さもないと、A地の耕し手がなくなり、小麦の供給不足→価格上昇→A地耕作というプロセスで、結局はそうならざるをえない)。

 そこで一般的生産価格はA地の個別的生産価格で規定されることになり、1クォーター当り60シリングということになる。B、C、Dの小麦も同じ値段で売られるから一般的生産価格(=市場価値)総額は600シリングであるが、個別的生産価格(=個別的価値)はそれぞれ60シリング(計240シリング)であり、1クォーター当りではそれぞれ30、20、15シリングである。この一般的生産価格総額と個別的生産価格総額との差が差額地代にほかならないが、これは「虚偽の社会的価値」とよばれ、その源泉をめぐって、戦前から一大論争が展開され、それを農業内部で生産された剰余価値とみる「生産説」と、社会全体で生産された剰余価値の一部が流通の迂路(うろ)を通って実現されたものとみる「流通説」とが対立して今日に至っている。

[常盤政治]

差額地代第二形態

第一形態が豊度の異なる諸地面に投下された諸資本の生産性の差から生ずるとすれば、同一地面に継続的に投下された資本の生産性の差から、差額地代の第二形態が生ずる。第二形態は第一形態を前提としてのみ成立すると考えなければならないが、この第二形態についても、戦後、第二形態そのものの概念内容をはじめ、収穫逓減(ていげん)・逓増とのかかわりにおいて、いろいろな論争点が浮かび上がっている。

[常盤政治]

位置の差額地代

差額地代は土地の豊度によるだけでなく、位置の差異からも生ずる。土地が、そこで産出される生産物の販売市場からどの程度離れているかによって、生産物輸送上の費用に差異が出てくるからである。市場に近いほど輸送費が安く、遠隔地ほど高くつくから、市場圏遠隔限界地の輸送費を含む個別的生産価格が市場調整的生産価格となり、市場近接地ではその近接の度合いに応じて輸送費が節減され、その分だけ超過利潤を発生させる。この超過利潤は地代に転化する。これが位置の差額地代である。

[常盤政治]

絶対地代

豊度や位置とかかわりなく土地所有の独占によって成立する地代である、といわれる。差額地代が最劣等地には原則として生じない(生ずる場合もある)のに対し、絶対地代は最劣等地にこそ成立する。絶対地代は土地所有の力によって成立し、価格の原因となる点で、価格の結果成立する差額地代と決定的に異なる。絶対地代の成立条件として、(1)農業資本の有機的構成の低さに基づく、価値>生産価格という関係の存在と、(2)土地所有の独占、という二つがあげられ、価値>生産価格であるから、価値の生産価格以上の超過分は本来なら他部門に流出して平均利潤の形成に参加するはずであるが、それを土地所有の力が農業部門に押しとどめて地代に転化させる、とされてきた。かくて絶対地代の源泉は、農産物価値の一般的生産価格を超える剰余価値とされ、絶対地代の上限は一般的生産価格を超える農産物の価値水準で、これを超える農産物市場価格の形成によって成立する地代は独占地代とされてきたのである。しかし、絶対地代と独占地代とを区別するものとして、農産物価格が、生産価格以上価値までであるか、価値以上であるかといった区別をあげることは、けっして説得力があるとはいえない。価値>生産価格という条件は絶対地代の成立にとってかならずしも不可欠の条件ではありえず、土地所有の力によって農産物価格がつり上げられて成立する地代を絶対地代、独占価格の結果生ずる地代を独占地代と規定することによって両者の区別を明確にしうる。両者の区別は、価格が価値以下か以上かに置かれるべきではなく、地代が価格の原因であるか結果であるかに求められるべきである。独占地代は価格の結果であるという点では差額地代との同一性をもつが、差額地代が一般的生産価格と個別的生産価格との差であるのに対し、独占地代は一般的生産価格以上に押し上げられた独占価格の結果であるという点で差額地代と異なる。

 地代には、農耕地地代だけでなく、林業地地代、建築地地代、鉱山地代などがあるが、いずれもその成立の根拠および形成メカニズムは前述のような地代原理に基づいているということができる。

[常盤政治]

日本の地代

しかし、日本の地代を前記のような地代理論をそのまま適用して理解することはできない。農耕地地代に限っただけでも、農業経営が資本家的に行われているわけではないので、借地によって規模拡大を行う場合、借地料としての地代の高さは、主としてその地域の労働力市場の状況、したがって地場賃金の高さに依存するからである。そこでは一般に地代は賃金の高さに逆比例し、借地競争の程度に正比例する。建築地地代にしても、その土地が商業地か工場敷地か宅地かによって、その高さは異なる。その根底には位置の差額地代問題があるだけでなく、借地者の企業利潤の大きさや所得の高さにも依存することになるからである。

[常盤政治]

『大内力著『地代と土地所有』(1958・東京大学出版会)』『白川清著『価値法則と地代』(1960・御茶の水書房)』『日高普著『地代論研究』(1962・時潮社)』『井上周八著『地代の理論』(1963・理論社)』『常盤政治著『地代論』(杉本俊朗編『マルクス経済学研究入門』所収・1965・有斐閣)』『久留島陽三著『地代論研究』(1972・ミネルヴァ書房)』『久留島陽三・保志恂・山田喜志夫編『資本論体系7 地代・収入』(1984・有斐閣)』『花田仁伍著『農産物価格と地代の論理』(1985・ミネルヴァ書房)』


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