地域通貨(読み)チイキツウカ

デジタル大辞泉 「地域通貨」の意味・読み・例文・類語

ちいき‐つうか〔チヰキツウクワ〕【地域通貨】

特定の地域や共同体においてのみ流通する通貨中央銀行ではなく、市民やNPOなどが発行する。
[補説]日本では、高齢者送迎掃除の手伝いなど住民間の助け合い活動に対して支払われ、その地域内の商店で金券として使用できる形態のものが多い。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「地域通貨」の意味・わかりやすい解説

地域通貨
ちいきつうか

特定の地域やコミュニティで、物やサービスの対価として決済に使える擬似的な通貨。「日本円」「アメリカドル」といった法定通貨では実現しにくい、地方経済の活性化、住民福祉の支援、社会問題の解決などのために発行される。住民、商店街、非営利組織、自治体、企業、金融機関などが発行し、たとえば、高齢者の送迎、掃除の手伝い、間伐(かんばつ)材の処理などの対価として地域通貨を賦与し、福祉増進、相互扶助、環境保護などに役だてる目的がある。地域通貨には利子が存在せず、長期保有すると価値が減退するため、決められた域内で一定期間内に消費しようとの誘因が働き、これが地域経済の活性化効果をもたらすとされる。発行形態は商品券のような「紙幣型」、通帳で管理する「口座記帳型」、手形などを発行する「小切手型」などがあり、最近はブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用し、送金・決済コストを削減した電子地域通貨が急速に普及している。法的には商品券やプリペイドカードと同じ位置づけであり、有効期間が半年を過ぎると資金決済法の対象となる。北海道栗山(くりやま)町の「クリン」、千葉県の「ピーナッツ」、東京・早稲田大学周辺を発祥として、全国の加盟店で使える「アトム通貨」など地域や特産品にちなんだ名がつけられる。地域通貨は、(1)信頼を基盤とした域内循環で成立する、(2)半年とか1年といった使用有効期間を定めている場合が多い、(3)原則、法定通貨と交換できない、(4)社会福祉や環境保護など市場原理が働きにくいサービス分野の支援に有効である、などの特徴をもつ。

 ドイツの経済学者シルビオ・ゲゼルSilvio Gesell(1862―1930)が提唱した「スタンプ通貨」を基に、1929年の世界恐慌後、通貨不足に陥った欧米で地域通貨が相次いで誕生・流通した。これは一定期間ごとの紙幣へのスタンプ貼付を条件とすることで、貨幣価値を時間とともに減価させ(マイナス利子)、貨幣退蔵の防止と消費刺激をねらっていた。しかし恐慌から脱して経済が復興するとともに地域通貨は廃れた。その後、1980年にアメリカ・ワシントンDCの貧民層を対象にボランティアサービスを蓄積交換するための仕組みとして「タイムダラーTime Doller」や、1983年にカナダ・バンクーバー島コモックス・バレーの炭鉱閉山で疲弊した地域活性化のための「LETS(レッツ)(Local Exchange Trading System、地域交換取引制度)」などが考案され、政府に頼らずに経済活性化を目ざす試みとしてヨーロッパやオセアニアなどにも広がった。2017年時点で世界に5000種以上の地域通貨が存在する。日本では1999年(平成11)以降、900を超える地域通貨が誕生したが、管理コストがかさみ使用・流通範囲が限定されるうえ、偽造問題もあって、その4割は廃止・休眠状況にある。最近では、パソコンやスマートフォンの普及で、偽造がむずかしく利用データを捕捉(ほそく)・活用しやすい電子地域通貨が増えている。

[矢野 武 2018年9月19日]

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百科事典マイペディア 「地域通貨」の意味・わかりやすい解説

地域通貨【ちいきつうか】

一定の地域やコミュニティで参加者が自発的に財やサービスを交換するシステムおよびそこで用いられる通貨。原型は贈与交換や互酬性などに見られるが,大恐慌期の1930年代に欧米で運動として広がり,1980年代に復活した。(1)独自の通貨を発行する型と(2)通帳に個人別に労働時間などの取引を記録・決済する型などがある。カナダで1983年に始まった〈地域交換・交易システム〉(LETS:Local Exchange and Trading System)がよく知られ,これは(2)の型の例。地域通貨は労働時間や国民通貨にリンクしているものが多いが,相互扶助やボランティア活動などにより地域社会の活性化をめざす点では共通。日本でも2000年ころから地域通貨の運動が広がりはじめ,2004年まで導入団体数は増加をみせたが,利用者数の伸び悩みなどから,2005年に導入団体数は減少に転じた。

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ASCII.jpデジタル用語辞典 「地域通貨」の解説

地域通貨

限られた特定の地域内やメンバー間だけで利用できる通貨。エコマネーとも言う。一般の通貨(円やドルなど)とは異なり、資産価値は持たない。例えば、ボランティア活動に対する報酬として、地元商店街のみで商品やサービスを購入できる地域通貨を発行するといった具合に、コミュニティの活性化などを目的に導入されるケースが多い。1980年代初頭にカナダで始まったとされ、日本でも約300もの地域通貨が報告されている。

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